いばらきの公共事業(歴史をたどる)

県企業局長・企業公社理事長編⑦

2024.08.24

いばらきの公共事業(歴史をたどる)

阿見東部工業団地と江戸崎工業団地の造成について
~より使いやすい工業団地を造る~

渡邊 一夫 氏
元県企業局長

木村 政美 氏
元県常陸太田工事事務所長(当時:企業局施設課施設整備グループ主査、課長補佐)

阿見東部工業団地 発想転換で町道嵩上げ

 旧江戸崎町(現・稲敷市)の稲波干拓地には、毎年11月頃になると60羽ほどの「オオヒシクイ」が、ロシアのカムチャツカ半島からはるばるやってきていました。体長約90㎝、くちばしの先がオレンジ色になっているのが特長です。ここの水田地帯を餌場とし、二番穂やスズメノカタビラなどの食物をついばんだり、日向ぼっこなどをしているのです。圏央道の都市計画決定にあたり、国の天然記念物である「オオヒシクイ」に、みんなでかなり気をつかったのが思い出されます。

江戸崎工業団地 公共残土を搬入、参考事例に

 阿見東部工業団地の再造成と、江戸崎工業団地の造成についてお話します。
 まず、阿見東部工業団地の再造成についてです。最初に雪印メグミルク㈱の担当者が2名、現地に来られた時のこと。区画の南側の緑地帯の杉の木が「混みすぎ、育ちすぎで日照に問題がある」というのです。
 これには大急ぎで対応する必要があると考え、かなり広い面積でしたが、立木を1/3に間伐し、小枝払いもして木漏れ日が当たるようにしました。通常数十日かかる仕事を、2日間で完了させたのです。これで一歩前進したと思いました。
 雪印メグミルクと成約になった4区画は、地区内道路ですでに阿見町に移管されている町道を挟んで2区画ずつになっていました。これを1区画に再造成しなければなりません。町長さんと町議会の了解を得て、町道を廃道とし、用地を県に戻してもらった後、やっと造成工事に取りかかることができたのです。
 手続きにも工事にもかなり苦労しましたが、短期間で無事、大区画に再造成することができました。
 4区画を1区画にする工事も無事完了して、いよいよ引渡しが見えてきた頃、問題が発生してしまいました。雪印メグミルクが計画している出入口部が、町道ともっとスムーズになるよう、造成高を約1m下げてほしいというのです。これには非常に困ってしまいました。約10万立方mの土を持ち出すためには、期間も費用も相当かかってしまいます。
 ここで考えついたのが、発想を転換し、逆に町道を嵩上げしてしまう案です。さっそく町の了解を得て、工事を実施しました。おかげで工期も短く、費用もかなり抑えることができました。1つのことを成し遂げるには、いくつもハードルがあるなと思いながらも、みんなで頑張ったのです。
 次に、江戸崎工業団地の造成についてです。企業局が知事部局から引き継いだこの団地については、何度も現地踏査を行い、次の4つの方針を決め、積極的に行動に移しました。
 まず1つ目は、稲敷インターアクセスとなる県道江戸崎新利根線バイパスから、直接出入りできる地区内道路を新設すること。これは地盤も悪く、かなり高盛土でかつ急ぎ仕事だったため、担当には苦労をかけたなと思います。
 次に調整池については、新設道路と地区界の間の細長い土地を活用し、早急につくることとしました。使えない土地を調整池に活用でき、またタイミング的に掘削残土を造成に利用することができたので、良かったと思いました。
 3番目は、造成を3段階に分け、まずは1期分として造成しやすく分譲しやすい約14 haを優先整備すること。この工事に合わせて企業活動を活発に行い、㈱コメリ茨城流通センターの誘致に繋がったのです。
 最後に、公共残土を活用して極力造成コストを抑えること。これについては、(一財)茨城県建設技術管理センターの協力を得て、各土木事務所などから公共残土を搬入したのです。これは他の工業団地造成でも参考になる事例だと思います。
 いろいろと知恵を絞り、立地企業にとって、より使いやすい工業団地を造成することが大切なのだと思いました。

木村 政美(きむら まさみ)
 1963年1月18日生まれ。61歳。83年入庁。三浜港湾事務所(現・茨城港湾事務所大洗港区事業所)に配属。企業局施設課課長補佐、潮来土木事務所河川整備課長、検査指導課課長補佐、常総工事事務所次長兼道路河川整備課長、道路維持課技佐を経て、2023年、常陸太田工事事務所長で定年を迎えた。23年4月からはサンコーコンサルタント㈱理事を務めている。

目標達成へ即座に実行

 私は昭和58年4月に県職員として採用され、本庁では検査指導課、道路建設課、道路維持課、企業局施設課に配属され、出先の事務所では港湾、道路、河川、海岸、土地区画整理、ダム、流域下水道事業等の様々な仕事を担当させていただきました。
 この中でも特に印象に残る、企業局における地域振興事業について振り返りたいと思います。
 茨城県企業局では、水道用水供給事業、工業用水道事業、地域振興事業の3つの事業を行っており、私が主に担当した地域振興事業では、阿見東部工業団地と江戸崎工業団地の土地造成事業を実施しておりました。
 まず、阿見東部工業団地における雪印メグミルク㈱の立地についてお話しします。
 雪印メグミルクとの土地売買契約は、平成22年7月に行われました。そこに至るまでには、渡邊局長の陣頭指揮のもと企業誘致担当者が企業訪問やアンケートを幾度となく繰り返しました。その結果、圏央道開通による阿見東部工業団地の優位性から、雪印メグミルクの工場移転候補地の一つに認められました。このチャンスを絶対に逃がさぬよう、熱意とスピード感を持って交渉を重ね、契約締結に至ったのです。
 この契約に際し、企業側から条件として出されたのは、もともと雛壇式に4区画で造成されていた11・4haの土地を前面道路とフラットな1区画に再造成することでした。再造成には約10万立方mの残土を搬出する必要があり、多額の費用を要すること、短期間に大量の土砂を受け入れる場所の確保が困難であること、土地の引渡し期限が平成22年12月末に設定され、工期が5カ月しか確保できないこと等の理由から、引き渡し期日までに工事を完了させることは難しいと思われました。
 しかし、企業誘致担当者のこれまでの苦労を無駄にするわけにはいきません。渡邊局長とともに何度も現地調査を行った結果、局長から「発想の転換で、思い切って前面の道路を嵩上げしてはどうか」とアイデアをいただきました。
 すぐに費用比較や工事工程の検討、道路管理者である阿見町との協議を行いました。前面道路の220m区間における、最大で約1mの道路嵩上げ工事の実施と、再造成に伴う残土搬出量を最小限に抑えたことにより、引渡し期日までに再造成工事を完成させる見通しがつきました。
 工事期間中は、長期間全面通行止めにしなくてはならず、他の立地企業のご理解とご協力を得ながら進捗を図った結果、ギリギリではありましたが、引渡し期日前に土地を引き渡すことができました。
 次に江戸崎工業団地についてお話します。
 江戸崎工業団地は、平成21年度に知事部局から企業局が事業を引き継ぎ、翌22年度には造成工事を開始、平成23年6月から分譲を開始した工業団地です。
 江戸崎工業団地周辺の地域は良質な山砂の産地であり、50年以上前から採掘が行われてきました。用地買収時は、山砂を採掘した後の掘り穴がそのままの状態であったため、造成にあたっては大量の土砂を必要としていました。
 このため、茨城県建設技術管理センターの協力により、受け入れ型の「江戸崎第2ストックヤード」及び「稲敷ストックヤード」を開設し、周辺の公共事業から約60万立方mもの良質な建設発生土を確保することができました。これが早期の分譲開始に繋がった大きな要因だと考えています。
 現在、建設技術管理センターが運用するストックヤードの土砂が十分に有効活用されていないとお聞きしております。公共事業で大量の土砂を使用する計画のある自治体の皆さんは、是非相談してみてはと思います。
 また、江戸崎工業団地はオーダーメイド方式による土地分譲を行っており、区画割り、造成高さ、出入口の場所等について、契約締結前から企業の担当者と密に協議を行う必要がありました。  
 最初に立地していただいた㈱コメリ茨城流通センターの用地については、雨水排水を考慮し、土地の高低差を約2mつけて粗造成を行っておりました。
 平成23年12月にコメリさんと契約締結となりましたが、その際の条件が、阿見東部の雪印さんと同様に、10・3haの広大な土地を全面フラットに再造成するというものでした。土地の引渡しは3カ月後とされ、新たに計画された1200mの地区内道路と、約8万立方mの盛土工事を同時に完成させなければならなくなりました。
 工事を担当された方であれば、この困難さは十分ご理解いただけると思いますが、出来ない理由を探している暇などありませんでした。
 再造成工事に必要となる土砂を早急に確保するとともに、効率的な工区設定、コンクリート二次製品を積極的に活用するなどして、なんとか引渡し期日に間に合わせることができました。工事期間中、近隣の高台から日々現場の進捗状況を確認していましたが、10haの土地で大型重機が30台ほど同時に稼動している様子は、これまでの現場経験の中でも一番迫力があり、まさに戦場の様でもありました。
 当時、地域振興事業は私を含め3名で工事を担当しておりました。それぞれが責任感を持って業務を遂行し、困難な状況にあっても、目標を達成するために何が必要かを考え即座に実行し、結果を出すことを目指しておりました。渡邊局長のもとで鍛えられ、いい勉強の機会になったと思っています。

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