いばらきの公共事業(歴史をたどる)

県企業局長・企業公社理事長編②

2024.06.15

いばらきの公共事業(歴史をたどる)

県南水道事務所と水質管理センターについて
~研究を重ねてよりおいしい水を~

渡邊 一夫 氏
元県企業局長

高田 浩幸 氏
元県企業局危機管理対策監兼施設課長(当時:企業局施設課施設管理グループ主査)

 霞ヶ浦浄水場 既存利用で新施設

 今回は、県南水道事務所と水質管理センターについてお話させていただきます。2つの事務所は霞ヶ浦に面し、霞ヶ浦総合公園に隣接して併設されています。最寄駅は常磐線土浦駅で、国道125号が近くを走っており、非常に恵まれた立地となっております。私は両事務所を訪れた際は、ちょっとの暇を見つけて、大好きな霞ヶ浦を眺めながらウォーキングやストレッチを楽しんだりしていました。

産学官で共同研究 新手法でおいしい水を供給

 県南水道事務所は昭和42年、霞ヶ浦水道事務所として発足しています。霞ヶ浦から取水している霞ヶ浦浄水場、阿見浄水場、利根川から取水している利根川浄水場が、8市町村(土浦市、つくば市、守谷市、稲敷市、阿見町、利根町、河内町、美浦村)と茨城県南水道企業団(龍ケ崎市、取手市、牛久市)に水道用水を供給しております。また、阿見浄水場から阿見町、牛久市、守谷市、取手市、龍ケ崎市に立地する51社54事業所に工業用水を送っております(平成20年4月現在)。
 3つの浄水場とも、それぞれ課題を抱えておりましたが、機会を見つけては現地に行き、所長、場長、担当とよく話し合いながら1つ1つ前に進めていきました。
 特に思い出深いのは、霞ヶ浦浄水場の改築事業です。いずれの施設も40年程度経過しており、電気機械設備の主要部品の多くが製造中止の状況であったため、新しい設備に切り替える改築事業に取りかかっておりました。また、沈殿池、浄水池、送水ポンプ等については、既存のものを利用したまま、新しい施設を新設して切り替えることとし、その新設工事に着手しておりました。
 現場は霞ヶ浦に面しており、地盤が悪く、また地下水位も高いため、基礎工のための土留工や水替工に苦慮しておりました。仮設工法の変更などもたびたびありましたが、費用はオーバーしても安全優先、環境優先で進めてもらいました。
 改築のための敷地も手狭だったので、安全に、また仕事をやりやすくするため、隣接地を地主さんの了解を得て大幅に借り受けました。工事の完了時には、返却するのではなく、すべて買収させてもらいました。危機管理上でも、後々の増設のためにも必要だと判断したのです。
 次は水質管理センターについてです。水質管理センターは昭和47年、水質検査室として発足しています。企業局の11浄水場の浄水について、水質基準項目を定期的に検査するとともに、水質管理に対する支援を行っています。
 私が在任中の平成21年2月、水質検査の信頼性保証システムの一つである「水道GLP」の認定を取得し、水道法に基づく水質検査の信頼性確保と検査技術の向上を図れたのは、本当に良かったと思っております。
 また、東日本大震災における原発事故を受け「ゲルマニウム半導体検出器」をただちに導入し、放射性物質の測定を始めたのも、より信頼性を高めていると思います。
 このような中、私が特に力を入れて実施したことがあります。今までの、活性炭をメインとした浄水施設に比べてもっとコストカットができ、よりおいしい水ができないかという、産学官の共同研究です。
 企業局の趣旨に賛同し、共同研究者として前澤工業㈱、メタウォーター㈱ほか4社が名乗りを上げてくれました。本当に感謝しております。企業局から各社にほんの少しの補助金を出し、各社はどの浄水場も自由に使って研究してくれてよいという条件でした。
 こうして東京大学の古米弘明教授に委員長を引き受けていただいて「浄水処理手法の改善調査検討委員会」が発足したのです。この委員会には私も毎回出席し、その後も引き続き実施され、平成25年度から実証実験を実施する運びとなりました。近々、新しい手法でよりおいしい水が供給できるようになるのです。
 最後に、委員長の古米先生と筑波大の杉浦則夫委員は美味しいお酒が大好き。私は委員会のたび茨城の名酒を用意し、楽しい有意義な懇親会を行ったのです。

高田 浩幸(たかだ ひろゆき)
 1962年12月9日生まれ。61歳。入庁は87年、企業局鹿島水道事務所に配属。その後は企業局鹿行水道事務所長、施設課首席検査監などを経て、2023年3月に危機管理対策監兼施設課長で定年を迎えた。現在は一般社団法人日本工業用水協会の専務理事を務めている。

水道、工業用水を安定給水

 私は36年間勤務のうちの32年間、企業局で一貫して水道用水と工業用水の安定給水に関わって参りました。茨城県は地下水が豊富なこと、人口集積度がそれほど高くなかったことなどもあって水道後発県であり、普及率の向上が第一目標でした。また、高度経済成長期以降の水源開発費が割高であったことや、原水水質の変化に合わせた高度浄水処理が必須になったことなどもあって、いかにして原価を抑え、安価な水道水を供給するのかが大きな課題でした。
 霞ヶ浦浄水場を含む6つの浄水場では、国内第2位の大きさを誇る霞ヶ浦(西浦と北浦)から取水し、水道用水と工業用水を送水・配水しています。霞ヶ浦は水深が浅く、湖底まで光がよく届くため年間を通じて藻類数が多く、光合成に伴う夏場のpHも高めです。昭和47年には、当時珍しかった粒状活性炭吸着設備を鹿島浄水場に整備(霞ヶ浦はS50)するなど、高度浄水処理を全国に先駆けて設置して対応していました。
 その後しばらくは水質的な安定期もありましたが、平成19年の冬期から霞ヶ浦の水質が急変し、藍藻類のオシラトリア(100~300ミクロン大)が異常繁殖したため、凝集阻害と高濃度のかび臭とを除去するための費用が嵩んでいました。この時の粒状活性炭の再生費用は、給水原価の25%を超える水準に達していました。
 当時、本局の施設課に在籍していた私は、さっそく排水処理の下水放流や高性能活性炭の投入、自己再生炉の整備など、あらゆる可能性について検討しました。しかし現状の水処理プロセスでは費用を抑えることが難しいため、民間の最新水処理技術を広く公募し、フィールドテストを行うこととしました。その際、渡邊局長から「ここで実証される技術は日本初となる可能性があるのだから、公募に際して企業局も実験費用の一部を補助する枠組みとするように」と指示があり、急遽予算確保に奔走した思い出があります。
 結果的に、6つの共同研究と5つの持ち込み実験が、局内5カ所の浄水場にて平成21年8月からスタートしました。ここまで大々的な実証実験を行えたのは、提案を一つも漏らすなという局長指示があったからだということは言うまでもありません。
 実験の評価委員会には、東京大学の古米先生に委員長をお願いし、筑波大の杉浦先生(元局職員)、国立保健医療科学院の伊藤先生など、そうそうたるメンバーからお力添えをいただきました。
 その後、平成25年に東京大学で霞ヶ浦発信の浄水処理技術シンポジウムを開催し、最終的に前段処理として帯磁性イオン交換樹脂(MIEX)処理、後段処理としてオゾン促進酸化(AOP)処理の組み合わせが給水水質の安定性と経済性に最も優れた方式であるとの結論を得ました。
 組み合わせ実証試験は、平成26年12月から実施。水処理コストの低減ができ、またカーボンニュートラルにも寄与できる、この新しい水処理施設の事業認可を同30年3月に厚労省から日本で初めて取得し、令和2年より第一期工事としてオゾンAOP施設整備に着手しました。
 日本初の浄水処理フローとなることから、慎重に実証、検証を重ねなければならないのは当然のことですが、実験開始から認可までは10年の歳月を要しました。さらに4年の整備期間を経て、令和6年度に日本初のオゾンAOP施設が稼働します。
 水道事業は装置産業なので、水処理施設等に投資した資産を50年くらいの長期間で回収することになりますが、50年先の原水水質の変化を正確に予測することは困難です。今回は、国内最高を記録した印旛沼の例を参考に、かび臭濃度が水質基準の300倍程度に上昇しても耐えうる施設としましたが、藻類の優占種の変化は多様であり、想定し得ない結果となることもありえます。
 平成19年冬期のような、巨大化した藍藻類や珪藻類に対応する鉄系凝集剤とのハイブリッド注入などの実験は今後とも継続し、水質管理センターとともに常に最悪の状態を意識した実験研究を継続していく必要があります。業務の委託化に伴い局職員が減少する中で、施設の持つ能力を的確にコントロールし、常に先見性をもって業務にあたれる水道マンを一人でも多く育成していくため、数多くの経験を積み重ねていくことが大切だと感じています。(島津就子)

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