いばらきの公共事業(歴史をたどる)

いばらきの公共事業 県土木部総括技監・部長編⑨

2024.04.27

いばらきの公共事業(歴史をたどる)

技術力、経験力を生かし
県・市町村に貢献する建設技術公社

渡邊 一夫 氏
元県土木部長

皆川 和彦 氏
元県土木部次長(当時・県建設技術公社理事長)

 建設技術公社は、公益事業として県や市町村の技術職員の技術力向上のため、各種の研修を実施しています。県の職員を対象に、若手育成支援業務も行っています。設計、積算や現場管理、品質管理、検査業務などについて、助言・指導を行ってくれています。河川・道路災害復旧の事例をもとに、災害復旧事務にかかる研修会なども実施しているのです。県にとっても市町村にとっても、本当に頼りになる存在です。

技術力向上へ各種研修

 茨城県では、昭和30年代から先進県を目指して、国家的プロジェクトである鹿島臨海工業地帯の整備とつくば研究学園都市の建設がはじまり、その他の地域でも各種基盤整備が積極的に進められました。それに伴い、土木部では予算も事業量も年々増え続け、大いそがしとなりました。
 これに対応するため、昭和41年に土木部の補完機関として、各種調査、測量、設計、施工管理などを行うことができる社団法人茨城県建設コンサルタントが急ぎ設立されました。鹿島港が開港に向けて着々と整備を進めている頃で、多目的ダムの水沼ダムが完成した年です。
 この建設コンサルタントを活用して、土木部は科学万博を含む大規模プロジェクトのインフラ整備を着実に進めたのです。私も境土木、石下土木事務所の頃と、県庁の都市施設課、道路建設課時代に、大いに活用させていただきました。
 昭和63年4月、この社団法人を母体に、県・全市町村が加わる形で、財団法人茨城県建設技術公社が設立されました。そして平成24年4月、一般財団法人に移行し、今の技術公社が誕生したのです。
 この頃になると、県内の測量業界もコンサルタント業界も相当充実してきていたので、そのあたりを考慮しながら建設技術公社に業務委託しておりました。事業化するための予備調査などは、既存データの収集や現地踏査、設計積算などを委託し、見通しをたてた後、測量会社やコンサルタントに本格発注しておりました。
 各事務所で工事を行う場合、各担当者が設計積算をし、発注後はその担当者が現場監督を行います。中間検査などを受けながら工事を仕上げるのです。
 しかし、何本もの発注が重なる時などは、積算業務を技術公社にお願いして対応しておりました。橋梁やトンネル、それに県営の土地区画整理事業などで、施工管理が複雑でやっかいなものはクロスチェックの意味もあり、施工管理の補助を積極的にお願いしておりました。
 特に災害などの緊急時は、すみやかに被災状況を把握し、建設業界はじめ各業界の皆様の力を借りて応急復旧をするのですが、同時に本格復旧に向け、国から補助金をもらうために査定設計書をつくり、査定を受けるのです。この査定設計書づくりでは、技術公社が大いに役に立ってくれました。
 県では技術公社と連携して、各種台帳の作成、管理、更新に力を入れてきました。道路台帳、橋梁台帳、公園台帳などです。私もこの件については、若い時から関わっていました。工事が完成した時は、必ず台帳を作成し、補修、修繕を行った時はこれを更新するのです。これらの一連の流れは、大部分を技術公社が行ってくれています。新しい工事を始める時は、この台帳での確認作業から入るのです。橋梁はじめ、各種点検や長寿命化計画は、これをベースに実施されています。
 土木部では、常に技術職員の技術力向上や若手職員の育成に力を入れています。技術公社が、県職員のみならず市町村の技術職員を対象に各種研修などを行ってくれていることに、感謝しております。本当に、技術公社は頼りになる存在なのです。

災害復旧に査定設計書策定

皆川 和彦(みなかわ かずひこ)
1961年10月3日生まれ。62歳。88年に入庁、都市施設課(現・都市整備課)に配属。その後、茨城港湾事務所長、技監兼検査指導課長、水戸土木事務所長などを経て、2022年3月に土木部次長で定年を迎えた。22年4月より、一般財団法人茨城県建設技術公社理事長に就任。現在はニチレキ㈱、日瀝道路㈱に勤めている。

建設行政の事務執行支援

 今からさかのぼること約60年、まさに高度経済成長期であり、様々な開発プロジェクトが県内で進められていた時代、県では慢性的な技術職員不足に陥っていました。この状況を解消すべく、県土木部の現職派遣者と退職技術者からなる建設行政の支援を目的とした公益法人が、昭和41年4月に設立されました。これが現在の技術公社の前身となる「社団法人茨城県建設コンサルタント」です。
 当時、全国でも当社団法人と同じような性格の団体が徐々に設立されていきました。建設技術の研究、技術基準の整備、災害復旧事業の相互応援等の共通話題があったことから、(社)茨城県建設コンサルタントが全国組織の結成を提唱するとともに、発起人として、さらに設立準備事務局として設立の調整にあたりました。
 その結果、昭和49年3月に、21府県団体が参加した「全国府県建設技術センター等連絡協議会」が設立され、以後7年間にわたり会長県として会の運営に携わるなど、全国的にも中心的な存在になっていました。(現在は、「全国建設技術センター等連絡協議会」に改称、全国40団体で構成)
 当社団法人は、建設行政の補完団体としてその役割を担ってきましたが、さらに県および市町村職員の専門的な知識と資質の向上を図ることが求められるようになったため、より公益性の高い「財団法人茨城県建設技術公社」が昭和63年4月に設立されました。
 その後、出資団体改革等もあり、測量や設計など民間と競合する業務から工事発注に係る積算や、工事監督補助などの業務に事業内容を転換していきました。また、県および市町村職員の技術力を向上させる研修、技術的な助言・相談、さらには建設CLS/ECの運営およびサポートなど、建設行政の事務執行を支援する事業を拡充して、平成24年4月に一般財団法人に移行し、現在に至っています。
 現在の茨城県建設技術公社ですが、公益目的事業では、県および市町村職員を対象とした専門分野別技術研修や建設IT研修を実施しています。特に、市町村職員に対しては初任者向け技術研修を実施しているほか、全国建設研修センターへの短期派遣研修や要請による出張研修も実施しています。
 また、若手職員育成支援、災害復旧の技術的支援、建設事業に関する技術的相談、さらに電子入札システムや土木設計積算システムの運営などに取り組んでいます。収益目的事業では、工事費積算、工事監督補助、橋梁長寿命化等への支援などを実施し、公共事業が円滑に執行できるように支援するとともに、県および市町村職員の技術力向上に努めているところです。
 次に、社会貢献事業についてですが、県および市町村が企画する最新技術の導入など先駆的な試みに対し、公社が共同実施者になり、その費用を負担する提案型事業を実施しています。市が実施した事業の一例ですが、駅から高校への通学路としても利用する歩行者道計画において、3D地形図に設計案を重ねたバーチャル空間を作成し、学生とワークショップを開催しました。疑似体験をすることにより具体的に計画を理解することができたので、活発な意見交換につながったと聞いており、より親しみのあるまちづくりに貢献できた事例といえます。
 このようにインフラ分野のDX推進や、生産性向上などに寄与する将来へつながる新たなチャレンジへの投資も積極的に行っているところです。
 また、災害時の市町村支援についてですが、被災状況の早期把握のため、ドローンを活用した空撮支援隊「技術公社Team Sky」を運用しています。以前からドローンによる被災状況調査は実施していましたが、令和元年東日本台風をきっかけに、より組織的に機動力を持って災害対応にあたることができるよう設置したものです。
 現在は25名体制で3つのフライトチームを構成し、年間を通じて災害現場を想定した操縦技術の訓練を実施するなど、いつでも県内自治体の要請に基づき出動できる体制をとっています。
 最近では、令和5年9月の台風13号関連の災害においても、各市の要請に基づき迅速に現場へ派遣し、撮影データを災害査定に役立てていただいたところです。災害発生時は初動対応が重要ですので、「技術公社Team Sky」をご活用いただければと思います。
 今後も、建設行政の補完や支援など、当公社に課せられた社会的な使命を深く認識し、県および市町村のニーズに的確に、タイムリーに、スピード感をもって対応していくことが、頼られる存在であり続けることだと思っておりますので、何か困ったことがあれば、ぜひご相談いただければと思います。
 最後になりますが、私は第25代理事長として務めさせていただきましたが、設立以来57年、改めて振り返ってみて、先輩方の偉大な功績の上に現在があることを再認識したところです。
 これまで技術公社を支えてきた先輩方に敬意を表するとともに、これからも技術公社がますます発展していくことを願っております。(島津就子)

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