いばらきの公共事業(歴史をたどる)

いばらきの公共事業 県土木部総括技監・部長編③

2024.02.10

いばらきの公共事業(歴史をたどる)

人と自然にやさしい下水道事業について

渡邊 一夫 氏
元県土木部長

渡辺  洋 氏
元技監兼土浦土木事務所長(当時・県土木部都市局下水道課長)

 下水道は、家庭や工場、事業所などから出る汚れた水を処理場に集め、綺麗な水にして湖や川に流すのです。さらに、蚊やハエの発生を防ぎ、伝染病の予防や衛生環境の向上にも役立っています。汚れた水が直接流れ込まなくなり、美しい湖や川が蘇るのです。今回は、人と自然にやさしい下水道事業のお話です。

下水道は重要インフラ

 県の下水道は、昭和44年、鹿島臨海工業地帯に立地するたくさんの企業、工場からの汚れた水を処理する特定公共下水道がはじまりと聞いております。深芝処理場で、神栖の公共下水道も含め、一括処理されています。
 その後、昭和48年には筑波研究学園都市(現つくば市)などを対象にした霞ヶ浦常南流域下水道と、霞ヶ浦周辺市町村を対象にした霞ヶ浦湖北流域下水道が始まりました。さらに那珂久慈、霞ヶ浦水郷、利根左岸さしま、鬼怒小貝、小貝川東部の各流域下水道が整備され、現在では1つの特定公共下水道と7つの流域下水道があります。
 これらは県が事業主体となって進めており、流域ごとに市町村が進める公共下水道の汚水を、まとめて1箇所の処理場で処理するのです。これらの業務を担当するため、昭和47年、土木部に下水道課が発足しました。それまで、計画一課と計画二課で行っていた下水道の業務を1つにまとめたのです。もちろん、市町村が進める公共下水道の相談事も一括して、下水道課が対応することになったのです。
 初代課長には、下水道に精通した方が国から就任し、事業は急ピッチで進められました。私もこの課長に「渡邊くん、下水道課に来ないか」と誘われたのを、懐かしく覚えております。
 生活排水の処理は、下水道事業の他に農業集落排水事業、合併処理浄化槽等でも行っています。県では、この3つの事業がうまく連携して進められるよう「生活排水ベストプラン」を策定しております。
 私が土木部長の時、このプランの見直し時期でもありましたので、下水道課とは頻繁に打ち合わせを行っておりました。この頃、下水道課が頭を悩ませていたのが、接続率の問題です。せっかく下水道が家の前まで来ていても、自己負担があるため、なかなか繋いでもらえないというのです。
 みんなで協議を重ね、この自己負担の手助けに市町村と県が協力して補助金が出せないかと考えましたが、予算化はなかなか難しい状況でした。ちょうどこの頃、県では森林湖沼環境税を創設しようとしておりました。この税金の一部を使わせてもらおうと考えたのです。
 財政課はもちろん、関係する部局と調整に調整を重ね、最後は知事調整にまで持ち込んで、補助金制度をつくることができたのです。
 公共下水道の事業主体である市町村が、1戸あたり2万円を出してくれることを前提に、県が2万円上乗せして、計4万円の補助金を出すことになりました。このことにより、接続率は少しずつ上がり始めました。この制度は、その後も色々改善され、今でも続いていると聞いております。みんなで頑張った甲斐があったなと、嬉しく思っております。
 深芝処理場に風力発電をやろうと考え、検討を始めたのもこの頃です。神栖地域は風力発電の適地であり、再生エネルギーとしてシンボル性もあり、実益もあると考えたのです。
 下水道は、生活や企業活動になくてはならない重要なインフラなのです。

渡辺 洋(わたなべ ひろみ)
1950年1月6日生まれ。74歳。75年入庁、土木部都市計画課に配属。その後、都市整備課技佐兼課長補佐(技術総括)、道路建設課高速道路対策室長を経て下水道課長、2010年3月に技監兼土浦土木事務所長で定年を迎えた。現在は建設用基礎杭、コンクリート2次製品の製造、販売を行う前田製管㈱に勤務している。

普及率の向上へ傾注

 私は平成18年4月から2年間、土木部都市局下水道課長として、下水道の整備、普及促進に携わりました。初めて下水道事業に携わりましたので不慣れだったため、猛勉強したのを懐かしく覚えております。国との協議や市町村からの様々な要望、問題の相談に乗ったりと、大変忙しい日々でしたが、部下にも恵まれ無事に務めることができました。
 特に力を入れたのは、下水道接続率の向上です。一般的に、下水道整備の目安としては「下水道普及率」が用いられます。これは、下水道を整備した区域の人口のうち、何人が下水道を使用できるかの割合で、例えば100人が住む区域で50人が使用可能な場合の普及率は50%となります。
 しかし、自宅の前に下水管が設置されても、これに接続しなければ下水道の効用は発揮できません。この下水管につないだ割合を接続率(水洗化率)で表しますが、自宅の台所、風呂、トイレなどの生活雑排水を集めて、市町村が設置した下水管につなぐ費用は自己負担のため、すぐに接続とはならないのです。ちなみに、私が住む茨城町では、接続するための費用(受益者負担金)は宅地の面積が330㎡(100坪)の場合、570円/㎡を乗じて18万8100円を納め、それに宅地内の諸工事費として数万円がかかるわけです。
 私が課長として赴任した平成18年当時、本県の下水道普及率は51・7%、接続率は86・7%でした。接続されないと下水道料金も入らないため、管理運営にも支障をきたします。この接続率をどうやってアップするかが県、市町村の大きな課題でした。このため、県は各市町村と連携して、戸別訪問やキャンペーンなどを通じて接続への理解、協力をお願いしましたが、うまくいきません。
 そんな折、県の関係部局では新たに森林湖沼環境税を創設することにしたのです。その財源を使って、森林の保全や湖沼の環境改善を強力に進めることとし、県条例を制定。その税収を、来年度予算へ計上するとの話を聞きました。
 県税納税義務者の個人には年額1000円、法人には均等割額の10%を課税しようとするもので、その税収の一部を湖沼周辺の住民が負担する下水道接続費用に補助できないか、さっそく生活環境部に申し入れました。しかしご存じのように、役人の縦割り行政から壁は高く、交渉は難航しました。とはいえ、下水道の普及は湖沼・河川の水質改善に寄与することは明らかでしたので、生活環境部、財政課にも最終的には認めていただきました。
 ここからが大変、焦点は補助金をいくらに設定するかでもめました。下水道課としては、一戸当たり県補助3万円、地元市町村3万円負担し合わせて各戸に6万円補助したい、一方で生活環境部は、県補助額1万円が限度と譲りません。
 最終的に知事裁定に持ち込まれ、そこでも3万円と1万円で双方譲らなかったのですが、機を見て知事が「2万円でどうだ」と土木部長に打診あり。同席していた私が思わず「ここらで手を打ちますか?」と部長にささやき、部長「そうすっか」との声。そこに列席者の中から「君たち、バナナのたたき売りではないんだよ」と声が上がり、一同爆笑。こうして1戸当たり県費補助額2万円が決着した次第です。
 平成20年度から事業が開始され、当該年度の税収額は約13億円でした。私事で恐縮ですが、茨城町の我が家の前にも待望の下水道が通り、県、町合わせて4万円の恩恵に預かりました。この制度が下水道接続促進への大きな弾みになったのではないでしょうか。
 平成20年度から令和4年度まで、15年間の下水道への接続補助件数は霞ヶ浦、涸沼、牛久沼流域合わせて1万1313件とのことです。なお、令和4年度の下水道普及率は65%、接続率は91・1%です。
 事業の効果では、下水道接続率向上のほか、下水道未整備区域での合併浄化槽補助など様々な対策により、税導入前の霞ケ浦のCODが約9㎎/L(H19)であったものが、約7㎎/L(R2)に低下したものの、近年は横ばいで推移しているとのことです。
 下水道課としても、この制度について市町村と連携しながら随時工夫、検討を重ね、現在、県内の38市町村・団体が下水道工事に対する独自の支援策を提供しています。特に、霞ヶ浦流域の18市町村では、年収が600万円未満の世帯などを対象に、35万円を限度に接続工事費を補助しているとのことです。
 当時の私たちの志を引き継いだ後輩の奮闘、努力に、胸が熱くなる思いで県庁を後にしました。(島津就子)

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