いばらきの公共事業(歴史をたどる)

いばらきの公共事業 県土木部総括技監・部長編②

2024.01.26

いばらきの公共事業(歴史をたどる)

生活を支える建築について

渡邊 一夫 氏
元県土木部長

山田  茂 氏
元県土木部技監兼建築指導課長(当時・住宅課技佐兼技術総括)

県有施設耐震化 100%達成

 私はテレビで放映されている「ビフォーアフター」を観るのが大好きです。間取りが悪かったり、段差や急な階段があり、薄暗かったり住みにくい老朽化した家が、「匠」の手によって見事に再生される番組です。バリアフリーとなり、手すりが取りつけられ、お年寄りにも住みやすい家に変身するのです。建築は奥が深いんだなと思いながら観ています。

土木部には、建築関係の業務をしている課として、建築指導課、住宅課、営繕課の3課があります。この3課が仕事を分担し、連携しながら茨城県の建築行政を行っているのです。
 まず、優良住宅の供給についてです。道路、公園、上下水道などの生活インフラの整った優良な住宅団地をつくる方法として、地主さんと一緒になって整備を進める土地区画整理事業があります。
 一方、住宅課が主管課となり、住宅供給公社が進めた全面買収方式は、短期間で造成を完了させ、分譲できるメリットがあります。住宅供給公社は、最後は債務超過に陥り自主解散となりましたが、高度成長期の住宅需要に大きく貢献したと思います。
 住宅供給公社は1965年に発足し、約1万3000戸の住宅・宅地を分譲しました。生活インフラが整備されていて安かったので、大変な人気だったのです。私も色々な団地造成のアクセス道路整備に関わっておりました。常磐自動車道の水戸北インターの整備なども、水戸ニュータウンを分譲するのに役立てば、などと思っていました。土木部長の時、水戸駅前で公社職員と分譲のためのチラシ配りなどもしたのは、懐かしく苦い思い出です。
 次に「マイホーム借り上げ制度」の活用です。平成18年、国の支援を受けた法人が高齢者の中古住宅を借り上げ、子育て世帯に賃貸する「マイホーム借り上げ制度」が開始されました。
 ある団地のアンケートによると、半数以上の世帯が将来的には持家を貸したいという意向だったという話もあり、これは非常に良い制度だと思ったため、制度の周知を積極的に行いました。同時に、住宅の新築やリフォームに地域材を利用した場合、利子補給する「マイハウス資金制度」のPRなども行いました。土木部長の時の話です。
 3番目は県営住宅についてです。県営住宅は現在28市町村に156団地あり、総戸数は1万3043戸となっております。住宅課所管で、指定管理者として(財)茨城県住宅管理センターが施設管理を行っております。
 私は、県営住宅は非常に重要だと思っておりました。数は増やせないにしても、リニューアルしたり、建て替えしたりして現状の戸数は確保しておくべきだと考えたのです。
 部長の時、積極的にリニューアル工事を進めました。色々な団地に行き、担当者とリニューアル方法などの打ち合わせをしたりしていました。県営住宅の安全性をより確保するため、警察との連携を図り、県警の刑事部長と協定を結んだりもしました。
 4番目は建築確認の話で、所管課は建築指導課です。誰でも、家を建てる時は建築確認をとる必要があります。企業さんがビルを建てる時なども同じです。これが平成19年、建築基準法の改正により、ある程度の規模以上の建築物は建築確認をとる際、新たに「構造計算」について、別の機関にチェックしてもらうことが義務付けされたのです。
 県では、急ぎ構造の判定機関として、(財)茨城県建築センター、(財)日本建築センター、(財)住宅金融普及協会の3機関を、後に(財)ベターリビングを指定しました。当初は申請側も審査する側も混乱し、確認審査の遅れなどの問題が生じましたが、確認の事前審査を積極的に行ってもらうことで難局を乗り越えたのです。すでに(財)茨城県建築センターが設立されていたので大助かりしたのだと、しみじみ思いました。
 最後は県有施設の耐震化です。大きな地震が発生した時、頼りになるのは大きな集会所や学校など避難できる建物や、病院、警察署や土木事務所などです。これらの建築が持ちこたえられなくては一大事です。
 これに対応するため、平成19年、耐震改修促進計画が策定されたのです。平成19年度から平成22年度までの4年間に対象となる県有施設について、耐震診断を行い、平成21年度から平成27年度にかけて改修を実施するというものです。これは全庁的な話です。
 施設を持つ部局が予算を確保し、土木部に振り替えして、建築指導課と営繕課が主体となって設計、発注、施工管理を行いました。平成27年度末、県有施設1439棟の耐震化が見事に完了したのです。これは100%の達成率です。行政と建築業界が連携し、県民の安全確保に大いに寄与した大プロジェクトだったのです。

長寿命化の発想に誇り

山田 茂(やまだ しげる)
1956年1月31日生まれ。67歳。83年に入庁し、営繕課に配属された。その後、つくば市都市建設部長、土木部技監兼営繕課長を経て、2016年3月に土木部技監兼建築指導課長で定年を迎えた。のちに(一財)茨城県住宅管理センター理事長に就任し、現在は県職員当時の経験を活かし、㈱竹中工務店に勤務している。

私は建築職として茨城県に採用され、土木部建築3課をメインに仕事をしてまいりました。建築指導課では建築確認、開発許可、耐震化業務を、住宅課では県営住宅や民間住宅を対象に良質なストック形成を、営繕課では県有施設の設計・施工管理や既存ストックの長寿命化などに取り組んできました。
 また、都市計画課ではつくばエクスプレス開発関連の都市計画決定に関わり、さらにはつくば市派遣で開発審査会の立ち上げをはじめ、都市行政に関わる得難い機会もいただきました。今回はその時々に、何を成したのか申し述べさせていただきます。
 はじめに「構造計算適合判定」についてです。
 平成19年、耐震偽装事件(H17姉歯事件)を契機に「構造計算適合性判定(ピアチェック)制度」が導入されました。本制度は、建築確認時に第三者機関による構造審査を義務化したもので、本県では、茨城県建築センターはじめ4団体を審査機関としました。
 唯一の県内機関である茨城県建築センターは、平成11年の建築基準法改正(建築確認への民間参入)で設立されたものですが、後にピアチェックの一翼も担ったので、その存在には大いに助けられました。
 次に「液状化対策」についてです。
 平成23年の東日本大震災では、平成7年の阪神淡路大震災を契機に建築士会と連携し創設した「茨城県震災建築物応急危険度判定士制度」が十二分に機能しましたが、一方で、埋立地に立地する県営日の出住宅(潮来市)が液状化により不同沈下する未曾有の被害を受けました。構造専門家からアドバイスをいただくなど、様々な検討を経て、復旧工事を選択するに至りました。
 前例のない工事でしたので、工事完了後に頻発した余震のたび不安に襲われましたが、幸いなことに現在に至るまで被害は生じておりません。
 また、同様の被災住宅を対象に、法外な見積もりを提示する復旧業者がいるとの情報もありましたので、県営日の出住宅集会場をモデルケースに実地見学会を開催しました。ジャッキアップなどの作業手順や、標準的な料金などを示すことで、テレビ放映と相まって住民の方々への正しい知識啓発に役立ったのではと思っております。
 続いて、耐震化についてです。
「茨城県建築物耐震改修促進計画」(H19)などに基づき、避難拠点となりうる1439棟の県有施設について、平成27年、いち早く耐震化率100%を達成したことも忘れられない思い出となっています。
 また、老朽化が著しい県有施設については、耐震化を前提に効率的な維持・管理計画を策定し、最小にして最大効果の予算執行を実現するため、平成12年に「茨城県県有施設長寿命化計画」の策定に着手しました。
 当該計画は、庁内の問題意識が高まったことで、平成26年には「茨城県公共施設等総合管理計画」に昇華し、総務部所管となりました。個人的には残念な思いもありますが、「長寿命化」を発想した人間としては誇らしい限りです。
 最後に公営住宅についてですが、総戸数でみると漸減傾向にあります。一方で被災世帯、DV世帯などいわゆる「セーフティーネット」としての役割も確実に増しています。今後の状況を見極めて、適切な戸数の維持管理に努めることが望ましいと思われます。
 余談になりますが、東日本大震災の被災者対応として仮設住宅建設案もありましたが、公営住宅の活用を主とした方策を選択したことにより、スピード感のある対応ができたものと確信しています。
 建築住宅行政の特徴は、大多数を占める民間建物をいかにマネジメントするかにありますので、行政を取り巻くセクターが多いほど、その効果が高まるところにあります。
 現在、人口減少・少子高齢化の進展、家族形態の変化などにより、空き家急増が社会問題化しています。建築士会、建築士事務所協会をはじめとする頼もしい組織群に加え、住宅の斡旋・紹介、修繕などの実務をこなすセクターの出現が望まれるところであると思います。
 こうした問題意識が醸成され、議論が進み、最適な答えが出ることを願って止みません。後輩諸兄をはじめ、多くの方々の知恵と実行力に期待するばかりです。(島津就子)

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