いばらきの公共事業(歴史をたどる)

いばらきの公共事業 県土木部道路建設課編④

2023.08.25

いばらきの公共事業(歴史をたどる)

木島大橋と主要地方道常陸那珂港山方線について

渡邊 一夫 氏
元県土木部長(当時・県土木部道路建設課)

軽部  宏 氏
元県常陸太田工事事務所長(当時・県常陸太田工事事務所)

385m夢の長大橋が完成

 物事には、すぐには難しくとも、諦めずに時を待ち、状況が変わればできるようになることもあると思います。みんなで知恵を出し合い、その時が来るまで忍耐強く行動を続けるのです。今回のお話も、組織力と時が必要だったのだと思います。

県北山間地域を結ぶ主軸に

 木島大橋は平成21年、供用を開始しました。幸久橋と栄橋のほぼ中間地点、久慈川に架かる、橋長385・9mの夢の長大橋が完成したのです。
 この新橋については、地元要望が非常に強く、長年にわたって年に何度も要望を受けていましたが、なかなか事業化の目途がたてられず、道路建設課は悩んでおりました。整備すべき県道が見つからず、優先して事業化する理由も見つからなかったのです。
 そのような中、平成6年、私が道路建設課長補佐に戻ったころ、とにかく整備が進んでいる常陸那珂港と、県北山間地域を結ぶ主軸になる道路を計画し、整備を進めていこうということになりました。
 まず県道網の再編により、主要地方道常陸那珂港山方線を誕生させたのです。当然、新橋予定地は、この中に組み込まれました。これで整備する県道名が決まり、優先的に整備する必要性が生じたのです。
 さっそく平成6年から諸々の調査に着手し、平成11年には架橋位置が決定され、橋梁設計、取付道路の詳細設計も実施することができました。地域高規格を担うであろうルートを想定して、新橋前後1・7㎞区間を先行整備することにしたのです。
 この整備により、ひたちなか地区と県北地域の利便性が飛躍的に向上し、また常磐自動車道那珂ICと県北の連携も期待できると考えました。さらに、県が進めている宮の郷工業団地にも貢献できるだろうということで、事業化に踏み切ったのです。
 用地買収はもとより、河川協議はじめ諸々の課題を解決しながら着実に進められました。現地では、はじめて技術提案型を採用し、工期短縮も図ることができました。
 こうして、(仮称)木島橋は無事に完成できたのです。(仮称)木島橋は、公募により木島大橋と名づけられました。長い年月がかかりましたが、よくできたとしみじみ思っておりました。
 なお、常陸那珂港山方線ですが、木島大橋から宮の郷工業団地までの約6㎞区間について、幅員が狭かった現道が、今では立派に歩道付きの2車線道路となっております。那珂市側の約2㎞についても、整備済みとなっております。
 また、起点側からは常陸那珂インターから国道6号まで、地域高規格道路として整備が進められており、すでに国道245号までの約3・4㎞は4車線で供用開始されております。

軽部 宏(かるべ ひろし)
1951年7月11日生まれ。72歳。75年入庁、土木部道路維持課に配属。その後、都市局都市整備課技佐兼課長補佐(技術統括)、鹿島下水道事務所長などを経て、2012年に常陸太田工事事務所長で定年を迎えた。現在は橋梁用支承や伸縮装置など土木建築用機材の設計・製造・販売を行う㈱川金コアテックに勤務している。

県初の技術提案型総合評価を採用

 橋の開通から今年で15年目を迎えた木島大橋。この橋との出会いは平成20年4月、県土木職員として最後の勤務先である県常陸太田土木事務所長1年目の時でした。
 この架橋事業は、国際港湾都市として開発の進む常陸那珂地区の整備効果を、県北山間部へ波及させるため計画する幹線道路・常陸那珂港山方線整備の一環として位置付けました。また、かねてより地元からの久慈川新橋要望が強い地区であったことから、その優先区間として橋梁部と取付道路の全長1660m区間が先行して事業化されることになりました。このため、所管事務所としては橋の早期整備と開通が最重要課題となり、その後の工事工程にも反映されることになりました。
 現地に足を運ぶと、広大な田園地帯を流れる久慈川では、すでに前年度から施工中の上部工が最盛期を迎え、常陸太田市側と対岸・那珂市側とが繋がる長大橋の雄姿が望める工程まで進んでいました。
 木島大橋の工事完成に至る事業経過ですが、平成8年に予備設計へ着手、その2年後、詳細設計を経て、この橋梁の構造型式は下部工8基からなるPC7径間連続箱桁橋/全長385・9mの長大橋として設計されました。その後、平成14年から最初の下部工工事に着手、残り7基の下部工も順次工事に着手し、平成19年にはようやく上部工工事発注まで進みました。
 上部工の工事発注に際しては、当初計画では全体を3分割し、3渇水期(3ヶ年)かけて片岸から順次片押し施工する計画でした。しかし、所要工期が長すぎることから、工期短縮による早期開通で整備効果を出現させるため、2工区分割発注で両岸からの同時並行作業により1渇水期(1ヶ年)で施工可能とする技術提案を求め、県初の技術提案型総合評価方式で施工業者を決定しました。
 施工に当たっては、施工ブロック順序に応じたPC主ケーブル配置・定着位置変更、コンクリート打設順序・配合見直しや両岸からの同時並行作業に伴う仮設工見直し等の技術提案により、工期短縮した急速施工が可能となり、着工から1年余り(1渇水期)で無事竣工することができました。翌平成21年3月、ようやくこの新橋架橋事業全体が完成したのです。
 それまで仮称・木島橋と呼ばれていた橋名も、県民からの公募により正式に木島大橋と命名され、待ち望んでいた開通を迎えたのでした。
 平成21年3月に挙行された開通式では、多数の関係者に出席していただき、開通を盛大に祝っていただきました。この時ばかりは、当時の所管事務所長として喜びに浸ったひとときとなりました。
 木島大橋の開通により、常陸太田市と那珂市間を結ぶ当地域の道路事情は大きく改善されました。県北内陸部にある宮の郷工業団地と、常磐道・那珂ICを結ぶ所要時間は大幅な時間短縮が可能になる等、新たな地域間交流・連携に寄与するインフラ整備となりました。
 また開通後には、宮の郷工業団地や那珂ICとのアクセス強化を図るため、橋梁北側の工業団地に繋がる県道の屈曲部、幅員狭小区間について700m区間のバイパス整備、橋南側の取付道路に繋がる那珂市道の改良整備など、開通後の木島大橋の利用促進、利便性向上のための対策を関係機関で講じました。
 当時、木島大橋利用の通過交通は、まだ満足できる交通量ではありませんでしたが、平成23年3月の東日本大震災で当地域の多数橋梁が被災、通行止めになる中、数少ない無傷の久慈川架橋として、災害復旧活動や救援物資輸送のため皆様に利用していただき、大いに感謝されたことを思い出します。上部工発注時に、工期短縮を目的とした技術提案型入札を導入していなかったら、この震災時にはもしや供用できていなかったかもしれないと、改めて縁深い木島大橋の開通に感謝しました。
 現在、常陸大宮土木事務所では、木島大橋南側の国道349号から取付道路に繋がる常陸那珂港山方線バイパス整備に着手したとのことです。
 今後この区間の開通と、さらには常陸那珂地区とも繋がることによって、多くの車両が行き交う木島大橋の光景が早期に訪れることを待ち遠しく思っています。(島津就子)

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