いばらきの公共事業 県水戸土木事務所編⑧
2023.04.22
いばらきの公共事業(歴史をたどる)
那珂川にかかる5橋のおもいで
渡邊 一夫 氏
元県土木部長(当時・県水戸土木事務所長)
鯉渕 宏一 氏
元県土木部総括技監(当時・県道路建設課橋梁グループ主査)
橋は地域と地域を結び、緊急時には命綱となるのです。私が若い頃、現場で橋梁工事を担当させてもらった時、河川協議をはじめ大変なこともありましたが、とにかく嬉しく、ちょっと自慢したくなるような気持ちだったことを思い出します。『橋で川が渡れる』という、生活の当たり前をつくることの難しさと誇らしさ、両方を感じていました。さて、今回の水戸土木での話は、橋の話で締めくくりたいと思います。
「橋で川が渡れる」「橋は緊急時の命綱」
那珂川は、栃木県の那須岳を源流として、ひたちなか市と大洗町の間で太平洋に注ぐ延長150㎞の一級河川です。当時、水戸土木事務所では、この那珂川にかかる4橋の整備を進めておりました。いずれも、私が道路建設課の時に関わっていたものです。下流側から湊大橋、寿橋、水府橋、それと那珂西大橋です。
在任中、いずれも下部工事とアプローチ工事、上部工の段取りを実施しておりました。
担当課長と担当者には、とにかく現場に行くこと、受注者の現場責任者と綿密に打ち合わせを行いながら進めること、困ったら道路建設課橋梁担当に相談することを指示しておりました。
まず水府橋です。緊急の那珂川改修にあわせ、国交省との共同事業で架け替えを進めておりました。ひたちなか側で水郡線を交差するため、アプローチの縦断計画に苦労しました。水戸側の交差点の渋滞対策も、課題の一つでした。また、すばらしかった旧橋のイメージを残すため、旧橋の親柱は移設して再利用し、部材の一部を現場付近にモニュメントとして保存しています。
次に寿橋。木橋でしたが、平成10年8月の集中豪雨で両側の2径間を残し流出してしまい、急いで復旧する必要がありました。現位置に同レベルのものを復旧するのが原則ですが、まちづくりと渋滞対策の観点から、上流500m地点に永久橋をかけることにしたのです。那珂川の湾曲部に位置するため、橋脚の方向決めが難しかった橋梁です。
国道245号の湊大橋は、特別な思いがあります。老朽化が著しい上に歩道もなく、ひたちなか地区の進展に伴い交通量が増大していましたが、なかなか事業化が難しかった橋です。しかし、JCO臨界事故を契機に、4車線での事業に着手できました。まず上流側に2車線をつくり、その後は現橋を撤去して、残りの2車線を完成させるものです。近接橋の工事となり、近くに人家もあることから、下部工事に細心の注意が必要でした。上部工は、海岸が近いことから、塩害対策を実施することとしておりました。水戸側では、前後の4車線化事業も積極的に進めていきました。
問題だったのは那珂西大橋です。これができれば、県内那珂川にかかる16番目の道路橋となるわけですが、水戸側アプローチ部の用地買収が大幅に遅れていたのです。これを解決するため、事務次長をトップとするプロジェクトチームをつくり、毎日のように交渉にあたってもらいました。事務次長の熱意で、見事に問題が解決され、やっと盛土工事に着手することができました。
この4橋、その後どうなっているか心配で見て回ったりしていました。今では、どの橋も立派に完成し、供用開始され、県内那珂川では5㎞以内の間隔で橋が架かっています。
この4橋のかなり上流側に、国道123号の那珂川大橋があります。幅員が狭く、大型車同士がすれ違いづらいため、早く架け替えなければならない橋梁です。架橋位置と取付部のルートは概ね決めてありましたが、残念ながら架け替え事業には着手できないでおりました。
御前山側の取付部はバイパス計画となり、かなり長い延長となるため、このバイパスの一部を先行して事業化いたしました。長い年月がかかりましたが、今では工事も終わり、供用開始されております。近々、架け替え事業に着手でき、具体的な設計が進んでいると聞いており、ほっとしているところです。
経験は財産、技術力を継承
私は、2005~07年度に土木部道路建設課橋梁グループ主査を務めていました。05年度当時は、県内で28橋もの橋梁工事が進行中で、予算確保や懸案事項整理の対応に苦労していました。
湊大橋は、第一期工事として、上流側に下り線2車線の整備を進め、02年度から河川区域外の橋梁下部工に着手しました。私が担当している間に、上部工にも着手しました。
早期完成を図り、橋詰め人家等への影響も最小限に抑えるため、仮橋を設置せず既設橋を活かし、上下線分離橋の架け替え計画で河川協議を実施しました。この時、洪水時に水流の乱れによる橋脚基礎部の洗堀助長や流木による橋脚損傷、水位上昇防止を目的として、橋脚間に隔壁工を設置する条件が付されました。
隔壁工は難工事が予想されるため、再検討されることに。設置不要と判断していただくには、実験等により明確な理由を提示する必要があります。04年、国総研河川研究室の技術指導のもと、隔壁の有無による局所洗堀深および流木の掛かりやすさを比較する水理模型実験を実施しました。その結果により、隔壁なしで河川管理者から了承を得ることが出来ました。
併せて、P2橋脚工事は既設橋との近接施工のため、橋建協やコンサル、施工業者、本課、事務所などの関係者と計3回の検討会議を実施し、影響を事前に想定。的確な対応策を立て、事故等の未然防止に努めました。
私にとっても、湊大橋は記憶に残る橋のひとつです。支持地盤線が深く、基礎は鋼管矢板井筒基礎、上部工架設方法検討を必要とする大規模な工事であることはもちろん、当時さいたま新都心に出張中、湊大橋の現場で炎上があったとの連絡が入り、慌ててとんぼ返りしたことがありました。下部工の施工時に、自然由来のメタンガスが仮桟橋の基礎を伝わって引火したとのことでしたが、幸い大事には至らず、ボヤで済みました。施工に際し、その地域の土質特性を事前に把握することの重要性を再確認した出来事です。
また、私は18年度、那珂市の自宅から潮来土木事務所へ通勤していました。帰宅時間帯には、湊大橋での渋滞が特にひどく、時には海門橋へ迂回するなどの経験をしており、4車線の完成を待ち望んでいたひとりでした。
12年5月、暫定2車線で供用を開始し、翌年度から旧橋を撤去。上り線の工事に着手し、22年3月22日に4車線での供用を開始しました。安全で円滑な交通の確保はもとより、緊急輸送道路としての機能強化や物流の効率化、周辺観光地へのアクセス向上など、地域のさらなる発展にも大きく寄与するものと期待されます。
橋梁整備は、多くの予算と時間を要します。そのため、当初計画が重要ですが、施工を進める過程でも事前に課題を予測し、時には実証実験を行うなど、速やかに対応することで、より安全かつ経済的、そして施工期間短縮に繋がり、早期に整備効果が発揮されます。
現在、大規模な橋梁工事などが減っており、担当者が経験を積む機会が減少しています。技術力を継承するには、先輩方の貴重な経験や前向きに取り組む姿勢を、後輩に繋いでいくことが重要だと思います。