いばらきの公共事業 県水戸土木事務所編④
2023.02.25
いばらきの公共事業(歴史をたどる)
「土は宝」土の有効活用~過疎代行事業の思い出~
渡邊 一夫 氏
元県土木部長(当時・県水戸土木事務所長)
小林 政弘 氏
元県土木部技監兼検査指導課長(当時・水戸土木事務所道路整備第二課長)
現場発生土を盛土材に活用
私はインフラ整備に当たっては何といっても安全が第一であると考えて事業を進めてきました。将来に渡って安全が確保できるように工夫して整備をしなければなりません。もうひとつ心掛けたことは、公共工事で発生した土などを邪魔物としないことです。しっかり頭を使えば有効活用ができるのです。今回お話するのは過疎代行事業で行った町道についてです。
城里町(当時は常北町)主要地方道水戸茂木線の上古内から北に向かって延長約4㎞の立派な町道が整備されています。
つくばエクスプレスの関連で、日本自動車研究所(城里テストセンター)がこの地に移転しました。この施設へのアクセスのために整備されたのがこの町道です。かなりの難工事が予想され、早急に供用する必要があったので過疎代行事業として県水戸土木事務所が施行することになりました。
この道路の整備に関しては、私は県庁にいた時分から色々な面で係わっておりました。水戸土木事務所長に着任した時には用地買収は完了しており、工事の発注もあらかた終わっていたので、あとは完成を待つばかりとなっていました。
しかし、そんな状況を一変させる事態が発生しました。水戸茂木線から入って間もなくの右側に大きな大きな切土の法面があります。
この法面を通常の法勾配で施工していたところ、法面に崩落の兆候が出てきたというのです。急きょ、専門のコンサルタントに状況を確認してもらい、対策の検討を開始しました。いくつか提案を出してもらいましたが、いずれも数億円の予算がかかり、完成後も調査を続けなければならないということでした。これでは後顧に憂いを残します。
私は、山をお持ちの地権者さんに大幅な追加買収をお願いして、決して崩れないゆるやかで安定した法面にした方が良いと考えました。
担当課長には「一山全部買ってこい」と乱暴な指示を出しました。なんとか地権者様のご協力が得られ、必要な用地を取得することができました。
さあ、用地を取得できたからといってまだ安心はできません。今度は急いで数万立方mの土を運び出さなければなりません。幸いにも、県住宅供給公社が水戸ニュータウンの整備を進めておりましたので、交渉して土を仮置きしてもらうことができました。
工事は順調に進みましたが、一難去ってまた一難。道路沿いに立派な茶畑があったのですが「粉塵でお茶が売り物にならない」と苦情が寄せられたのです。担当課長と工事を請け負った建設業者さんが一軒一軒頭を下げて歩いて回り、なんとか理解していただきました。
後に、この仮置きした土は水戸ニュータウンへのアクセスとなる那珂川新橋に活用され、水戸北スマートインターチェンジの盛土工事にも使われました。まさに「土は宝」です。
この町道はその後、地域に欠かせない道路として何の問題もなく活躍しております。この道路を通るたび「あの時に決断して良かった」と胸をなでおろします。当時の担当者や工事関係者の皆さんには大変ご苦労をかけましたが、苦労の甲斐はあったのではないでしょうか。あの時工事に携わって下さった皆さんには、心より感謝しております。
小林政弘(こばやし・まさひろ) 1953年7月2日生まれ。69歳。72年に入庁。初配属は水戸土木事務所。2013年に県技監兼検査指導課長で定年を迎えた。
本路線は、市町村に代わり過疎代行道路として県が整備を進めていました。また、この道路は日本自動車工業会テストコース移転先地の進入路を兼ねており、平成17年のオープンまでの開通が必須となっていました。私が業務を引き継いだ時点では工事も全て発注され供用開始へ向けて順調に進んでいました。
しかし5月末ごろ、突然切土法面の崩壊が確認されたのです。路床の掘削により地下水の流出と法面崩壊を招き、掘削工事を進めることが道路本体工事に大きな影響を及ぼすため工事を一時中止。工程を変更して施工可能工種から再開。その上で、さらに施工方法の検討を進めました。
専門コンサルタント業者からは、切土法面の崩壊を防ぐためアンカーを併用した法枠工法が提案されました。工事はすでに全て発注済みであり、新たに法枠工事を実施するには多額の事業費の確保、加えて発注工事との手続の期間、施行工期の延長など限られた時間での結果が求められました。
その結果、法面箇所を追加買収して軟岩地山の法面を安定勾配以上に確保して崩壊を防ぐ工法に決定しました。必死の覚悟で用地交渉や土工事の発注手続きを進め、併せて残土仮置き場の詮索も積極的に進めなければなりませんでした。
運よく、この時期常磐自動車道水戸北スマートインターチェンジ新設計画や住宅供給公社による十万原住宅造成といった事業が進んでいました。
これらの関係機関へ働きかけ、とりあえず「水戸北スマートインターチェンジ設置に利用すべき土砂確保のため」という理由で、十万原地区の住宅造成箇所を約2年間残土置き場として利用する協力を得ることができました。
本格的に工事を再開し、順調に進めていたところ、土砂搬出のダンプトラックの走行に伴い粉塵が発生し、古内茶の葉に被害のおそれがあるなどと住民から搬出中止の苦情が上がりました。地元との調整は困難を極めましたが、何度も足を運びご理解を頂き、なんとか解決して本工事も無事に完成の運びとなりました。
この工事を通じて、所長からの助言と指示のもと法面対策工法に多額の費用を投入せず安全な方法を採用して、現場からの発生土はスマートインターチェンジ設置及び他事業の盛土材として活用するなど的確に判断して将来構想の実現化を導いた結果となりました。