いばらきの公共事業 県水戸土木事務所編③
2023.02.10
いばらきの公共事業(歴史をたどる)
「梅香トンネル」と「千波大橋交差点」は大活躍
渡邊一夫氏
元県土木部長(当時・県水戸土木事務所長)
大久保幸雄氏
元土木部技監兼下水道課長(当時・県水戸土木事務所道路整備第一課長)
私は散歩が大好きです。水戸市内では、千波湖を一周したり、桜川の堤防を歩いたりします。時々、文化センター前交差点から千波大橋を渡って、千波大橋交差点を左に曲がり、梅香トンネルまで車の流れを確認しながら歩いたりしています。明日から「梅まつり」が始まります。渋滞もなく、県内外からたくさんの方が来ることも、今では楽しみの一つです。
大渋滞解消へ短期間で完成
私は、県道路建設課に所属していた頃、この梅香トンネルの建設に大きく関わっていました。思った以上に地盤が悪く、難工事であり、予算も大幅にオーバーしてしまいましたが、無事完成した時は本当に嬉しく「良かった、よかった」と思いました。
しかし、トンネル利用の交通量が増加したため、今度はトンネルの先、千波大橋交差点付近が大渋滞してしまいました。
水戸土木事務所の所長になってからも、なんとかこの大渋滞を解消できないかと考え、何度も何度も現場に足を運んでいました。
交差点では、右折車は右折車線を使って曲がり、四車線で右折車線がない場合、内側車線を使うのが通例です。しかし、この千波大橋交差点の場合、トンネル側からは右折交通が主交通となるため、さばききれずに渋滞が起きるのです。そのため、内側車線に加え、外側車線も右折に使えないかと考えました。
逆に、文化センター側からは、左折交通が主となり、外側車線を左折専用にしているわけですが、この左折できる時間をもっとのばせないかと考えました。
さっそく担当課長に指示を出し、この考えを県警察と水戸市に協議してもらいました。
県警察も、突然の話でしたが、快く協議に応じてくれたそうです。結果的には、三者で協力して文化センター前交差点も含めて改良することになりました。
この時、私はある条件を出しました。「どうせなら、水戸の梅まつり開催に間に合わせよう」と考えたのです。
私がこの話を持ち出したのは、前年の11月でした。水戸の梅まつりが始まるのは、2月中旬です。誰もが不可能だと思うような工期でした。しかし、確実かつスピーディに、関係者全員で協力しながら、事業を進めていきました。
結果、大急ぎではありましたが、プロジェクトは大成功。渋滞は見事に解消されました。
私は、梅まつりの時期になると、この時のことを思い出します。一緒に知恵を出し、苦労された方々も、きっと同じ思いだと思います。
大久保幸雄(おおくぼゆきお)1953年8月8日生まれ。69歳。80年に茨城県庁へ入庁。初所属は道路建設課橋梁係。その後、水戸土木事務所道路整備第一課長、技監兼下水道課長などを経て、2014年に企業局次長で定年を迎えた。
当時の所長である渡邊さんから、道路整備第一課長の私が「来年の梅まつりまでに千波大橋付近の交差点改良を行い、渋滞を解消する」という指示を受けたのは、2005年11月のこと。
年度末に差しかかる時期の、突然の話です。当然予算は無く、計画は全くの白紙からのスタートでした。
工事の内容は、交通量の解析、路面標示、信号機の変更など。通常ペースで実施した場合、順調にいって2~3年程度はかかる工事です。これを、梅まつりまでの数カ月で完成させなくてはなりません。
まずは予算の確保。所長の指示が徹底していたこともあり、この作業はスムーズにいきました。
図面を用意する時間は無かったため、住宅地図をつなぎ合わせた関係地形図を、警察協議の図面としました。このような急ごしらえの図面で協議をしたことなどなかったので、本当に心配でした。地図は、広げるのが恥ずかしくなるほど長く、県警の担当者も地図を見て驚いていました。
詳細設計に必要な交通量調査は、時間もないため、事務所直営で行いました。調査当時は真冬。24時間の調査は厳しいものでした。
そうして完成した詳細設計に基づき、県警との協議を続けました。当時の県警の方が「県がここまでの熱意を持っているのだから、県警としても、どうしてもこの事業を進めたい」と言ってくださったのを覚えています。我々の熱意や心意気に賛同してくださったのだと思うと、大変感激しました。
多くの方々の協力もあり、工事は無事梅まつり前に完了しました。こんなに短期間で公共事業が完了するのは、我々も初めてのことでした。
供用開始の前日には、関係者が集う盛大な飲み会を行いました。私は進行役として、冒頭の挨拶で「今日の出席者は、全員がご努力いただいた工事関係者です。皆様のおかげで、あす供用を開始できます」と感謝の言葉を述べたことを覚えています。
そうして迎えた翌日。二日酔いで頭が痛いながらに、供用を開始した交差点の車の流れを、ゆっくりと嬉しい思いで眺めました。この時「公共事業とは、本当に素晴らしいものだ」と思いました。
この工事を振り返ってみて、改めて思ったのは「トップの固い意志と強力なリーダーシップがあれば、公共工事ですら劇的に変化する」ということ。
本当のリーダーシップとは、上から「やれ」と命じることではなく、部下を仕事に向き合わせる力。トップが渡邊所長だったからこそ、どんなに追い詰められても「やろう」と思うことができたように思います。