茨城の歴史点描53 襖の中から現れたものは…
2023.06.23
茨城の歴史点描
茨城県立歴史館史料学芸部 特任研究員 永井 博
先日、私の職場で恒例の「歴史館まつり」が開催され、さまざまなイベントに多くの方が参加されました。
平素、古文書の調査、整理を担当している歴史資料課では「襖の下張りはがし」の実演と体験のイベントを実施しました。これはとくに難しい技術を要する作業ではないので、会場では小学生が熱心に作業に取り組んでいる姿が印象的でした。
さて、なぜ「襖の下張り」なのでしょうか。実は、ここに昔を知る古文書が隠されているのです。
和紙は水に強く、丈夫で酸による劣化もほとんどないことから、下張りとして、一枚の襖に大小あわせて百枚以上が使われています。これに水をかけて糊をとかし、一枚一枚を丁寧にはがしていくのです。墨はニカワを含んでいるので、水にぬれても滲むことはありません。乾かせば再利用が可能なところから、場合によっては、以前下張りに使われた和紙が再び使われている場合もあります。
今回は、小美玉市内の旧家を解体した折にいただいてきた襖を素材としました。残念ながら「これは」という内容の文書はありませんでしたが、幕末の年号が書かれたものもあり、歴史の流れを感じることができました。場合によっては、二、三百年前の文書が現れることもあります。
本紙の読者は、建設業関係の方が多いかと思いますが、もし古民家の解体、修理などの際、不要な襖が出たり、蔵などの中から古い文書などがでてきた場合には、歴史館の歴史資料課までぜひご一報いただきたく思います。
とかく文化財というと、床の間に飾られる掛け軸に書かれた「有名人の書」を思い浮かべる方も多いですが、正直のところ、これは現代でいうところの「サイン色紙」と同じで、そこから新たな事実がわかるものでもありません。
前回、長年蔵の中に放置され固着してしまった冊子を、埃をはらいながらはがした結果、江戸時代の産地別の米相場という新事実が現れた話をご紹介しました。こうした文書や今回の襖の下張りのような、ともすれば捨てられてしまうゴミのようなものにこそ、新たな歴史事実を明らかにする情報が含まれているのです。