茨城の歴史点描52 米の産地別格付け
2023.06.03
茨城の歴史点描
茨城県立歴史館史料学芸部 特任研究員 永井 博
先日、北茨城市で江戸時代の文書整理をやってきました。平潟の商家に伝わってきたという、虫食いと湿気で固着して板状になってしまっている帳面に竹串を差し入れたり、手を使いながら使い、かつ埃を払いつつ一枚ずつ剥がしていくという地道な作業です。
そうしたなかで「文化十年癸酉江戸伊勢町米会所格付写」と題された記録がでてきました。文化十年は西暦一八一三年、今からちょうど二一〇年前になります。江戸の「伊勢町」とは、現在の「日本橋本町一丁目」で江戸橋の北側、鴻池組東京本店付近にあたります。
「米会所」とは米の取引所で、伊勢町には文化六年に設置されました。各藩に納められた年貢米は、大消費地である江戸や大坂に運ばれ、こうした会所での取引で現金化されていきます。
しかし、どこの米も同じ価格での取引とはいかないわけで、生産地によって格付けがあったようです。
具体的に見てみましょう。基準となる「建米」は「武蔵葛西米」となっており、一両=一石一斗(約一六五キログラム程度)で取引されていました。これから一升単位で「格上」「格下」がそれぞれ定められています。
「二升格上」が最高ランクで「御蔵三河上米」「武州川崎米」などがあります。「御蔵」とは幕府領を指します。このようにして「格上」は二段階ですが、「格下」は何と一升きざみで二一段階に分けられ、最下位は「二斗四升格下」となっています。一両で基準米より「二斗四升」多く買える(割安)、ということになります。ここに格付けされていたのは「羽州秋田次米」で、今では米どころとして知られる秋田産であることには驚きます。
さて、気になる県内産ですが、「格上」はなく、「二升格下」に「常州北郷米(県北水戸藩領)」、「同三升」に「土浦古領米」「古河御蔵米」が、以下「四升」に「南郷米(水戸藩南部領)、「五升」に龍ケ崎、谷原、志筑、行方米が、「六升」に、岩間、茨城、下館米がランクインしています。
ただ、最も多いのは「八升格下」のランクで、山内、山外、新治、笠間、真壁、府中、牛久、下妻、河内郡、宍戸、鹿島郡、結城、谷田部米があげられています。 いずれにせよ、地域によって取引価格が異なるということは、領主にとって死活問題で、用水などのインフラ整備や栽培技術向上などに取り組むことが求められていたのです。