茨城の歴史点描⑳ 今年の「恵方」は?
2022.01.15
茨城の歴史点描
茨城県立歴史館史料学芸部 特任研究員 永井 博
前回、ご紹介した江戸時代の水戸城下の風習として、元日の明け方に、家族全員が盛装して祝儀を述べ、歳徳神(その年の恵方にいる神)の方角に向かい屠蘇酒を飲む、というものがありました。ほかに「恵方まいり」といって、年の初めにその年の恵方にあたる神社に参詣するという風習もあったようです。
さて、「恵方」といえば、すっかり節分の風物詩となった感がある「恵方巻」を思い出します。この起源については定説がないようですが、少なくとも昭和以降のようです。ただし、全国的に広まったのは某コンビニチェーンの販売戦略に始まった、ということは確かなようで、それは、たかだか二〇年余の歴史でしかありません。
しかし、「恵方」に対するこだわりが、江戸時代にはすでにあったことは、最初に述べたとおりです。ただし、それは正月の行事でした。この違いは何を意味するのでしょうか?
謎を解くカギは暦です。つまり、旧暦の正月は節分の頃(今年は二月一日が旧暦の元日になります)にあたるので、本来正月の行事の要素であった「恵方」が、節分の行事に取り違えられている、と考えると腑に落ちるのではないでしょうか。
ところで、今年の「恵方」はどちらの方角でしょうか?
これも暦と密接な関係があります。旧暦での年の表現方法は、六〇年を一サイクルとして、「十干」と「十二支」の組み合わせによって決まります。ことしは「十干」が「壬(みずのえ)」、「十二支」が「寅」となっています。「恵方」は、「十干」の種類によって決まります。それを十二支で表現された方位(「子」を「北」として時計回りに一二等分)にあてはめていきます。
すなわち次の通りです。
甲・己→寅・卯の間の方角(東北東)
乙・庚→申・酉の間の方角(西南西)
丙・辛→巳・午の間の方角(南南東)
丁・壬→亥・子の間の方角(北北西)
戊・癸→巳・午の間の方角(南南東)
「恵方」はこの五つの方角が循環しているわけですが、今年は「壬」なので「北北西」となります。