茨城の歴史点描 時代の変革者・徳川斉昭⑤
2021.06.04
茨城の歴史点描
茨城県立歴史館史料学芸部 特任研究員 永井 博
藩主に就任した斉昭は、天保四年(一八三三)に初めて水戸の地を踏みました。藩主が水戸に来たのは、実に二四年ぶりです。
そこで藩士たちに向けて訓示として発表したのが『告志篇』です。内容はかなり豊富なのですが、とくに勤務の際の心構えや仕事に対する姿勢にふれたものから、いくつかを簡潔に意訳して、( )内に主旨をまとめてみました。【上司の心得】
・それぞれが管理している者は、根本的には藩主の所属にある者なので大切に世話をし、悪事などがあった場合は、私(斉昭)が咎める前に改めさせよ(問題を起こす前の上司による日常的な指導が大事)。
・部下からの指摘は十分に聞き、理が通っていることは喜んでうける。過ちを改めることは恥ではない。指摘が間違っている時は、よくよく理を尽くして説明するようにすればかえって心服されるだろう。だが、ただ権威を振りかざして押し通せば、部下は激しく反発し、つまるところ私(斉昭)のためにもならない(部下との意思疎通が大事。パワハラはいけない)。
【部下の心得】
・上司は私(斉昭)が任命したものであるから、礼を尽くして接し、諸事指図をうけて粗忽なふるまいをしない(上司に対して部下は礼をつくすこと)。
【仕事に対する姿勢】
・全力で仕事に向かっている者は多くはないようだ。力を尽くして失敗するよりは、手を出さずにミスのないようにしている弊風がなきにしもあらずだ(ミスを恐れずチャレンジせよ)。
現代にも通じる内容は、これ以外にも多いのですが、これぐらいにしましょう。
斉昭は、これらの文を書いていくうちに、根本的には藩士の「人間力」を高めることが必要であると感じたらしく、読書、詩歌創作や山野で狩猟、馬で海辺を散策、月明かりの下で笛を嗜むことなどを「真の武士の楽しみ」として奨励するという一節を挿入しました。これらの実践の場として、のちに「偕楽園」が創設されていくことになります。