麒麟の正体
2021.02.09
コラム「四季の風」
◆戦国最大のミステリーと呼ばれる本能寺の変。それも結局は人と人との心の行き違いから起きた事であり、光秀と信長が共に過ごした長い時間の中の、ほんの一瞬の出来事だったのだと改めて気づかされた。明智光秀の一生を壮大に描いた大河ドラマ『麒麟がくる』が最終回を迎えた。
◆悲喜交々込められた「是非もなし」の一言の後、信長は槍を手に取る。すれ違いながらも「大きな国を作る」という夢を共有した盟友・光秀との一戦を心から楽しむように槍を振るう信長の姿は鮮烈だった。それだけに、膨大な数の敵相手に薙いでは突きを繰り返した立派な名槍の柄がへし折れる場面には、見ている側の心も折れるような心地がした。
◆人に認められたいという欲に突き動かされ続けた信長が一人死にいく様は寂しく、信長亡き後の世から静かに消えていく光秀もまた悲しかった。しかし、徳川の手で築かれる泰平の世を予感させるような清々しい幕引きには、光秀が歴史から姿を消した後の世のかすかな希望が感じられた。
◆実は生き延びていると噂され、麒麟のような幻の存在となった光秀。この大河における麒麟とは、光秀自身のことだったのかもしれない。(S)