コラム「四季の風」

継承の分岐点たる瞳

2023.10.17

コラム「四季の風」

◆旅先では必ず博物館に足を運ぶ。遠い昔から現代にまで形を残している展示物を見ると、それをこの時代、この場所まで届けてくれた人たちに感謝せずにはいられない。物も、技術や記憶もまた、現代の人々の手で継承しなければ後の世に残らないものだ。

◆誰も気に留めなかった草花の名前を、私たちに図鑑という形で手渡してくれた人がいた。『牧野日本植物図鑑』を刊行した牧野富太郎博士だ。その名は朝ドラ『らんまん』で広く知られることとなった。三千種以上の草花を解説するこの図鑑は1940年、牧野氏が78歳の時に完成。植物学に生涯を捧げた人生だった。

◆博士が残したのは図鑑だけではない。彼が収集した植物標本もまた、後世の植物分類学に貢献したという。標本を風化させず、受け継いできた人々の苦労も計り知れない。

◆過去から受け継がれてきたものは、時代を前へ進ませる。古きを良しとするばかりでは時代は変わらないが、だからこそこれからの時代、継いでいくべきもの、そうでないものを見極める目は不可欠になるだろう。過去と未来を繋ぐのは、現代を生きる私たちだ。(S)

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