コラム「四季の風」

今だから見える星

2023.09.05

コラム「四季の風」

◆楽しみにしていた行事が中止になった。家族や親戚に会えなかった。「コロナさえなければ」という言葉を、何度聞いてきただろう、言ってきただろう。世界中の人々が、きっと同じことを考えていた。

◆辻村深月氏の小説「この夏の星を見る」は、コロナ禍の学生たちが主人公だ。主な舞台は東京、長崎、そして茨城。主人公たちの学校では、部活動が制限され、修学旅行なども中止になってしまう。そんな中、各地の学生たちはリモートの天体観測を通じて交流を深めていく。

◆茨城の高校生たちは、自作の望遠鏡を使って制限時間内により多くの星を見つける「スターキャッチコンテスト」の開催を試みる。土浦三高で実際に行われた競技がモデルだ。オンライン会議で他県の学生と繋がっていく彼らの姿は、とても明るくたくましく、眩しかった。

◆「出来なかったことも多いけど、コロナ禍だから出来たこともあったかも」。そう考えさせてくれる力のある小説だ。コロナ禍にも、私たちはその時間を生きていた。読後は改めて、コロナ感染拡大直後の混乱と地続きの今を生きる自分に向き合いたくなる。(S)

お問い合わせCONTACT

電子版ログイン