絵本が語りかけるもの
2021.06.08
コラム「四季の風」
◆『はらぺこあおむし』などで有名な絵本作家・エリック・カール氏が91歳で亡くなった。優しくも鮮やかな色使いが印象的で、読むと元気が湧くような絵本をいくつも生み出してくれた。日本でも、キャラクターグッズが多く発売されるなど、幅広い世代に愛され続けている。
◆数年前、福島県の美術館で開催されたエリック・カール展に足を運んだ。見て、触って、楽しい展示は、彼の絵本そのもののようだった。氏の歩んだ人生について知ることができる展示もあり、その人生を通して作品を見てみると、絵本に親しんだ幼少期とはまた違った見え方がするような気がした。
◆カール氏は、両親がドイツ人だったこともあり、幼少期を戦時下のドイツで過ごしていたという。鮮やかな色が消え失せた灰色の町で生きた経験が、後に彼の作品に大きな影響を与えたのだそうだ。鮮やかな色彩とは、彼にとって希望の象徴そのものだったのかもしれない。
◆彼の生み出す可愛らしいキャラクターは、いつも明るい希望を与えてくれる。それは、氏が絵本に込めた、平和や自由への願いのような、祈りのようなものが、見る者へ語りかけているからなのではないだろうか。(S)