「茨城の防災」危機管理を問う

茨城の防災 危機管理を問う 3

2025.03.28

「茨城の防災」危機管理を問う

元県土木部技監兼常陸大宮土木事務所長 飯村信夫氏
1960年11月9日生まれ。64歳。入庁時期は86年4月、ダム砂防課に配属。その後は、常総工事事務所長、都市整備課市街地整備室長、河川課長などを経て、2021年3月に技監兼常陸大宮土木事務所長で定年を迎えた。その後は茨城県土地開発公社副理事長兼茨城県開発公社常務理事を務め、現在は基礎地盤コンサルタンツ㈱に勤めている。

初の権限代行で緊急復旧

 私は水に関わる仕事が長かったことから、災害と無縁ではありませんでした。とりわけ令和元年東日本台風豪雨では、情報共有や連携の大切さを再認識しました。
 令和元年10月12日の19時前、大型で強い台風19号が伊豆半島に上陸。県内を縦断し、夜間にかけて豪雨となり、那珂川や久慈川流域、福島県境に大雨をもたらしました。
 特に水沼ダムでは、計画雨量の約2倍の降雨となり、ダムへの流入量と同量を放流する緊急放流(異常洪水時防災操作)となりました。幸いにも河川改修や小山ダム、水沼ダムの洪水調節効果もあり、磯原市街地への越水氾濫は免れました。夜間にも関わらず、知事の了承や関係機関への連絡、NHK・茨城放送による住民への周知、所長から市長へのホットラインと市の避難指示の発令など、迅速に人的被害軽減のための連携が図られたことは有難いものでした。
 翌朝、水戸北スマートIC付近水没のテレビ映像が流れるなか、各地の氾濫情報が入るものの、その確認に時間を要しました。以降、危険や困難が伴う被災状況の確認にドローンの活用が進むことになりました。
 加えて、被災情報の不着を機に、被災箇所の画像による情報共有も始まり、応急復旧進捗状況報告も画像付きで行われ、携わる皆様のご努力もあって、幾度も発生したその後の出水による被害の拡大は抑えられました。
 県管理河川決壊箇所の応急復旧は、建設業協会各支部と調整がなされ、藤井川の国道123号上流について早期着手が決まったものの、他では難しい状況となったため、国への知事要望や調整を経て、久慈川(常陸大宮市小貫地先)と浅川(常陸太田市松栄町地先2箇所)の決壊箇所で、関東地方整備局初の権限代行による緊急復旧工事が進められ、早期に安全が確保されました。
 また、久慈川の県管理区間では被害が広範囲に及んだため、掘削・築堤により今回の洪水が発生した場合でも、家屋浸水被害が解消できるよう、災害復旧助成事業の申請に取り組みました。
 広域災害のため、コンサルタント各社が多忙を極め、改修計画の検討・策定作業をお願いできる会社はなく、かろうじて久慈川の地形データを保有する会社と被害額算定を受諾して下さった会社にご協力をいただき、茨城県測量・建設コンサルタント協会には図面作成の支援をいただきました。
 申請期間が短いため、現地調査・氾濫状況把握、河道計画作成、申請図書の作成は河川課職員が直営で対応し、国土交通省防災課や治水課、関東地方整備局に強力に支援いただき、165億円の災害復旧助成事業の採択がなされました。
 さらに、限られた期間内で整備を行うための工事実施体制の構築が困難であると予想されたため、機動力を有する関東地方整備局に河川工事の権限代行を要請し、承諾を得ることができました。
 国土交通省をはじめ、ご支援をいただいた皆様に改めて深く感謝申し上げますとともに、心から敬意を表します。

計画規模を超える洪水に対応

 温暖化による豪雨災害の激甚化が懸念されており、世界の平均気温が2度上昇した場合、21世紀末では20世紀末に比べて、関東地方の降雨量は約1・1倍、流量は約1・2倍、洪水発生頻度は約2倍になると予想されています。令和元年東日本台風の際の24時間雨量は、北茨城市花園で県内既往最大となる457㎜を記録するなど、猛烈な豪雨がいつ起きてもおかしくない状況にあります。
 概ね10年に1度の降雨(時間雨量60㎜相当)を目安に整備を進めている県管理河川ですので、計画規模を超える洪水は必ず起きると考えておくべきです。日本の河川は勾配が急で、洪水の継続時間が短いため、河川改修に加えて、霞堤や二線堤、横堤などの氾濫流制御施設、ダムや遊水池などの洪水調節施設のほか、輪中堤、宅地嵩上げによる家屋浸水防止策も取り入れられています。
 近年の水災害の激甚化・頻発化を踏まえた河川改修等の加速化に加え、既存施設の活用や関係者が協働して水災害対策を行う流域治水の取組みも進められており、高台移転やピロティ構造化などの土地利用規制・誘導もさらに進むものと思われます。
 土砂災害による犠牲者が高齢者に多いことは知られていますが、これは降雨後短時間で被災するというリードタイムが短いことが要因です。通常の雨では、樹木の枝葉が雨をさえぎり根っこで踏ん張って山肌を守りますが、極端な豪雨時には凹地斜面に水が集まり、表土の流出や土壌の飽和により斜面が根こそぎ崩落しやすくなります。
 斜面崩壊が起きると、さらに渓流内の土砂や樹木を巻き込みながら土石流となって流れ下り、河道を埋めたり橋梁部を閉塞して流れを変え、集落内の道路を流れて家屋破壊を招くなど、土砂や流木が人命を脅かします。発生する土砂量によっては、田畑や家屋など谷間一帯を覆いつくす場合があります。
 近年の豪雨による流木等による災害傾向を受けて、土石流や流木を捕捉するために透過性砂防堰堤の設置が進められていますが、猛烈な豪雨が予想される場合には、何よりも、安全な場所への早めの避難が肝心です。
 いずれにしても、防災・減災のためには、引き続きハード・ソフト対策の両輪を進めることが重要です。
 建設業に携わる皆様に、災害発生後のパトロールや安全確保、応急復旧など対応いただけることは、救助・救援活動の初動対応やその後の復旧・復興活動のためには欠かせないものになっています。災害対応される皆様には、適切な避難などにより、自分の身の安全確保を最優先に行動いただき、十分に力を発揮されますことを心からお祈り申し上げます。

流木を捕捉した藤井川ダム(令和元年10月、県河川課提供)

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