茨城の防災 危機管理を問う 1
2025.02.07
「茨城の防災」危機管理を問う


前県土木部次長 生田目好美氏
1964年2月27日生まれ。60歳。87年に入庁し、道路建設課に配属となった。その後は河川課技佐兼課長補佐(技術総括)、道路建設課高速道路対策室長、都市計画課長、圏央道沿線整備推進監兼竜ケ崎工事事務所長、水戸土木事務所長などを経て、2024年3月に土木部次長で定年を迎えた。現在は茨城県建設技術公社の理事長を務めている。
昨年1月に発生した能登半島大震災を受け、国は2026年度中の「防災庁」設置を目指している。災害対応や司令塔機能の強化、避難所の生活環境改善、また災害関連死を減らすための取り組みに対して予算を充てた。日本の各地では、地震だけではなく、数十年に一度と言われる大規模な大雨、命に関わるほどの猛暑など、異常とも言える気象災害が数えきれないほど発生している。そして、阪神・淡路大震災の発生から30年が経ち、震災の経験や教訓を未来へ継承する取り組みを進めている。地球温暖化に伴う緊急事態に国が対策を打ち出すなか、今、改めて茨城県における防災について注目したい。まずは県内の総合的な防災を皮切りに、道路や河川、港湾、水道など、県の防災・危機管理について、多くの方々の証言をもとに検証し、災害に強い県土を築くための取り組みを一つひとつ紹介していく。
生活の中から防災意識を培う
「防災」と聞いて、真っ先に私の脳裏に浮かんだのは、昭和61年8月に発生した台風10号による洪水で、那珂川が氾濫し、自宅が床上浸水の被害に遭った時のことです。人生で初めての水害体験で、戸惑うばかりでしたが、父や祖母は過去に幾度となく水害を経験しており、あらかじめ水害になりそうだと予想して、水位の状況を把握しながら、慌てふためくことなく家財の整理と避難の準備を早々に済ませ、被害を最小限に抑えたのです。
この時ほど過去の経験を踏まえた迅速な行動と情報収集、日頃からの心構えが大切であることを痛感したことはありませんでした。 例えば、祖母は水害になりそうだと聞くと、早々と自分の衣服や貴重品を荷造りし、誰よりも早く避難できる体制を整えておりました。父は丸太を切断し、床板の上に木製の長い腰掛(ベンチ)を平行に並べて、その間を丸太2本で橋のように渡し、手伝いに来てくれた方々の力を借りて畳や箪笥を全てその上に載せたのです。
その結果、床上浸水の被害を被りましたが、家財は畳1枚濡らさずに済んだのでした。そして、いざとなればいつでも避難できるよう、庭先には船を浮かべておりました。幸い床上数十センチで水位の上昇は止まったため、避難することなく済みました。
これは約40年前の出来事であり、今では考えられないような、一歩間違えば命に関わる危険な行動だったと思いますが、この地域で昔から暮らす人々は、家財を守るため、これが当たり前の対応だったのでしょう。
水害の恐さを身をもって体験し、自分の住んでいる地域がこのような地理的条件に在るということを肝に銘じて、ひとりひとりが水害に備える「防災」の意識を常に持ちながら生活していかなくてはならないと感じたのでした。
予防保全型の維持管理に転換
水害は二度と経験したくありませんが、近年は毎年のように全国各地で甚大な自然災害が発生しています。この頻発する自然災害は地球温暖化による気候変動の影響を受けているようで、特に直近の10年くらいは雨の降り方が強くなっているような気がします。
気象庁のホームページでは、2024年の日本の平均気温は、平年値(20年までの30年間平均)を1・48度上回り、1898年の統計開始以降で最も高くなっています。このような地球温暖化の影響を受け、大雨の発生回数も増加しています。
最近10年間の時間50㎜以上の降雨は、1980年頃と比べ約1・5倍に増加し、さらに強度の強い雨(時間80㎜以上・3時間150㎜以上・日降水量300㎜以上)はおおむね2倍程度に頻度が増加しているという状況です(※最近10年間(2014~23年)と統計期間の最初の10年間(1976~85年)の比較)。
このような気候変動の影響により、本県でも、平成27年関東東北豪雨や令和元年東日本台風、一昨年の台風13号に伴う線状降水帯発生による被害等、想定外の降雨による大きな災害がたびたび発生しています。
また、突然発生する地震による大規模な災害は、2011年の東日本大震災や熊本地震、北海道胆振東部地震、そして現在も復旧が続けられている昨年の元日に発生した令和6年能登半島地震などがありました。南海トラフ地震や首都直下地震など、今後30年以内に発生する確率が高いといわれている大規模地震に対する備えも、しっかりとしなければならない必要に迫られています。
こうした自然災害に備え、被害を未然に防ぎ、そして軽減させるインフラは非常に重要ですが、多くの施設が高度成長期に整備されたため、建設から50年を経過する施設が今後どんどん増加するなど、施設の老朽化対策が重要になっています。
定期的な点検と修繕により、施設の長寿命化が図れるように、予防保全型の維持管理に転換できるよう取り組みが進められています。


強靱化等を推進、防災力を強化
今後発生する自然災害に対し、インフラの更新や老朽化対策を含めた維持管理をしっかりと行いながら、安全安心で活力のある地域づくりをすすめていくには、以下に示すような防災・減災・国土強靭化の取り組みを確実に推進し、防災力を高める必要があります。
・河川、砂防、海岸等の防災インフラの整備と維持管理の充実
・交通(道路、港湾等)、通信、上下水道など生活に直結するライフラインの整備と適切な維持管理
・ドローンやAI等のデジタル技術の活用による災害対応力の向上
・災害発生時にもしっかりと事業継続が確保できる組織体制の整備
これらを推進するためには、常日頃から地域の守り手として、道路、河川、上下水道などのインフラの整備・維持管理を行い、また、災害が発生すれば、極めて厳しい状況の中で危険を顧みず、早期の復旧復興に向け、現場での活動に携わる建設業の皆様の存在が欠かせません。
しかしながら、建設業界は就業者の高齢化が進行し、若手就業者の確保にも苦慮しております。これらの課題解決に向けて、働き方改革を推進し、魅力ある建設業を広くアピールしながら、担い手の確保等に努めていかなければならないのです。
具体的には、受発注者が共通の認識のもと、週休2日制の導入や、適正工期の設定、ICT活用による生産性の向上、適正な予定価格での発注等の取り組みを実施するなど、皆が働きやすく、やりがいのある環境づくりに尽力していかなければなりません。
現在、防災庁創設に向けての動きが話題となっており、改めて防災に注目が集まっております。自然災害から人命や財産を守り、社会経済活動を継続し、活力のある県土づくりを進めていくためには、行政・建設業界・地域社会が一体となり、防災に対する様々な施策にしっかりと取り組み、地域の防災力を高めることが何よりも大事です。
そして、ひとりひとりが自分事として防災の意識を持ち、過去の災害の事例や経験等を教訓として、これからの防災についてしっかり考えながら行動することが必要です。