いばらきの公共事業 県土木部総括技監・部長編⑪
2024.05.25
いばらきの公共事業(歴史をたどる)
土木事務所、工事事務所、工務所は健在なり
~建設フェスタが建設業界の未来を拓く~
渡邊 一夫 氏
元県土木部長
生田目 好美 氏
前県土木部次長
私は小さい頃、上棟式でまかれる餅が大好きでした。上棟式があると、遠出してでも拾いに行ったのです。上棟式は、建物の棟が無事上がったことへの感謝と、工事の安全と完成を祈願するため行われるものです。餅まきは災いを払い、地域の人への感謝、みんなに福を分けるという意味から行われていたようです。土木部長の時、建設未来協議会主催の建設フェスタで仮上棟式の餅まきをしたのが懐かしく思い出されます。
全国初のランダム係数
土木の仕事は自然との共生であり、戦いであると思います。少しの隙も見せてはいけません。緻密な計画を立て、一歩一歩固めながら進めるのです。組織を固め、建設業界と連携を深めながら前に進むのです。
今回は①土木事務所の再編②入札制度の見直し③建設フェスタへの応援の3点についてお話をし、総括技監・土木部長編の締めとさせていただきます。
まず、土木事務所の再編についてです。当時、県では財政再建に取り組んでおり、県議会では「財政再建等調査特別委員会」が設立されておりました。その中で、土木部では土木事務所がターゲットになり、12事務所を5事務所に集約するという案が示されました。土木部長となっていた私は、これではまずいと思い、部内で急ぎ対策を検討しました。
土木事務所の原形的なものは、明治末期から大正にかけては『工区』と呼ばれていたようです。1工区、2工区の、工事の工区です。当時は8つの工区に分かれていました。それが大正15年に11の土木出張所になり、昭和3年、大子出張所が設置され、昭和18年に土木出張所の名前が変更されて、12の土木事務所が誕生したのです。平成6年、大子土木事務所は大子土木事業所として常陸大宮土木事務所に再編され、11土木事務所、1土木事業所の体制となった経過があります。
事務所の集約案に対し、私は①昭和3年、大子土木出張所ができた時から12事務所体制でインフラ整備と維持管理を行ってきたこと②今後、多少整備部門は減っても維持管理部門は増えていくこと③建設業協会も12の支部ができ、土木事務所と建設業協会の各支部が両輪となり、幾多の災害を乗り切ってきたこと④5つに集約してしまうと、時間的にもエリア的にも今までのような危機管理はできないこと、これらをメインに説明・説得を続けました。
庁議の場でも、いろいろな検討会の場でも、土木部だけが反対していて悪者扱いでしたが、めげずに頑張り続けました。最終的に知事裁定により、水戸、大宮、土浦、潮来、筑西を土木事務所とし、他は工事事務所(大子は工務所)と名称を変更し、発注権はそのまま、検査監の配置と特殊な許認可権だけを当面土木事務所に集約することで決着したのです。
「土木事務所と工事事務所、工務所は兄弟関係。今まで通り、のびのびと仕事ができます」と、議会の調査特別委員会で説明し、温かく迎えていただいたのです。先生方から「土木は今まで通り頑張ってくれ」との声があり、本当に嬉しかったこと、今でも忘れられません。
次は入札制度の見直しについてです。当時、全国的にいろいろ不祥事があり、あたかも指名競争入札が「悪」という風潮となり、急ぎ一般競争入札にすべきだと各県でこぞって引き下げを行ったのです。県によっては3000万、2000万、それ以下にしたところもあったと思います。
茨城県は一気に下げることには慎重で、今回は1億円以上だったものを4500万円に引き下げることにしたのです。この件について私は調査特別委員会で次のように答弁しています。
「入札制度ですけれども、おかげさまで4500万円以上、一般競争入札という形にさせていただいて、これですと業界もS、Aクラスという形で、Bクラスまで入っておりません。事務所としてはトラブルなく、きっちり執行できるのかなと思っていますし、県外と県内のすみ分けみたいなものも結構うまく指導していけるのかなと思っています。それは徹底して、とりあえずきっちりやっていきたいと思っております」
この頃、国の指導で総合評価方式を積極的に進めるべきとありましたが、これも慎重姿勢で対応しました。試行を重ね、利点、欠点を見極めることにしたのです。心配だったのは①急な作文で業界の皆様が苦労するのではないか②発注者が公平に判断できるのか、この2点でした。全国初のランダム係数を採用したのも、この年だったと思います。
最後に、建設フェスタへの応援についてです。建設フェスタは、県内のほとんどの業界が参加して、工夫を凝らした面白い催しなどをしてくれるイベントです。
ある時、建設未来協議会の会長さんはじめ、幹部の皆様が部長室に来られました。当時の総括技監、検査指導課長に同席してもらい、お話を聞いたところ「建設フェスタは業界のPRにもなるし、子どもさんたちにいろいろ興味を持ってもらえれば、将来業界に入ってもらえるでしょう。大々的にやりたいので、県にも応援してもらいたい」とのことでした。
聞けば、子どもさんを連れた若いお父さん、お母さんたちが何万人も見学に来るということです。私たちは即座に賛同し、検査指導課が中心となり、土木関係の出資団体にも働きかけ、物心両面の応援をすることにしたのです。
私は、1つ条件を出しました。私が深く関わった、つくばエクスプレスのみらい平駅周辺の土地区画整理区域内で開催してもらいたいということです。今、若い人をターゲットに県が売り出している優良宅地が買ってもらえるのではと考えたのです。
この条件はさっそく実現し、私も当然出席しました。イベントの一つである仮上棟式で餅まきをしたことが、非常に懐かしく思い出されます。
生田目 好美(なまため よしみ)
1964年2月27日生まれ。60歳。87年に入庁し、道路建設課に配属となった。その後は河川課技佐兼課長補佐(技術総括)、道路建設課高速道路対策室長、都市計画課長、圏央道沿線整備推進監兼竜ケ崎工事事務所長、水戸土木事務所長などを経て、2024年3月に土木部次長で定年を迎えた。現在は茨城県建設技術公社の理事長を務めている。
災害に強い県づくりを
私は昭和62年4月に茨城県に奉職し、以来37年間、公共インフラの整備・維持管理や災害対応等に関わってまいりました。今回の話題は、茨城県と建設業界が今後も持続的に発展していくために欠かせない、とても重要な話です。
まずは土木事務所の再編について。当時は、地方分権一括法による地方分権の流れの中、三位一体改革による税源移譲と平成の市町村合併が大きく進められておりました。その結果、県内に80以上あった市町村が44まで減りました。また、高速道路をはじめとする各種インフラの整備が大きく進展し、その効果として移動時間が短縮するなど、県を取り巻く社会情勢が大きく変化していました。
このような状況を踏まえ、県でも県財政の健全化のため、業務の集約と効率化を図る目的で地方総合事務所等出先機関の再編統合が議論されたのだと思います。
土木事務所においては、一部の機能を土木事務所に集約しましたが、先輩方のご尽力により、これまでどおり12の事務所体制で業務を進められることとなりました。誠にありがたいことです。
地域ごとに異なる地理的要因や、災害時の緊急的な対応の必要性を踏まえれば、これまでの実績や地域性や社会性により12の事務所(土木事務所・工事事務所・工務所)の体制でしっかりと業務を進めていくことが大切だと考えています。
例えば、その後発生した東日本大震災や令和元年東日本台風、そして昨年の6月と9月に発生した大雨による災害時の対応を見ても明らかなように、建設業界をはじめ関係機関と連携し、迅速に復旧復興を進めるには、現場にすぐ駆けつけられる現在の体制が必要なのです。
続いて、入札制度の見直しについてです。地域の守り手として意欲のある企業や、技術と経営に優れた企業が地域の発展に貢献できるよう、透明で競争性の高い市場環境の整備を図るため、入札・契約制度の改正に取り組んでまいりました。
一般競争入札につきましては、平成19年6月から4500万円以上の工事に拡大されました。また、これと併せてダンピング対策として実施している最低制限価格制度の改善も行われ、ランダム係数が導入されております。その後も一般競争入札は状況を見極めながら拡大され、現在は1000万円以上の工事が対象となっています。
最低制限価格制度においても、最低制限価格の引き上げ等の改正を引き続き進めているところです。
そして、一般競争入札の拡大の取組に加え、公共工事の品質確保を図るため、適切な技術力を持った会社により価格と品質が総合的に優れた調達を図るための総合評価方式についても、徐々に拡大させるべく、平成20年には特別簡易型を導入し、事務の簡素化を図っております。
現在も、この制度の試行の状況をよく確認し、適宜改定を行いながら、より良い制度となるよう取り組みを続けております。
建設業の魅力を多くの人に知ってもらえる絶好の機会である建設フェスタについては、残念ながらコロナ禍の影響で令和2・3年と、2年続けて中止となってしまいました。しかし、建設フェスタ実行委員会の関係者の強い熱意で「ぜひ再開したい」とのことから、令和4年には新型コロナ感染者数などの状況を鑑み、また感染症拡大防止対策を徹底して、再開にこぎつけました。
昨年10月7日には、秋晴れの笠松運動公園で大勢の親子連れなど約1万5000名のお客様をお迎えしました。親子丸太切りやクレーン乗車体験等をはじめ、様々な体験コーナーや展示コーナーで楽しんでもらいながら、建設産業の魅力や重要性を少しでも知ってもらうことができたと思います。
私も会場にいましたが、将来を担う子どもや小学生などが目を輝かせて、熱心に建設機械の動きを見ていたり、クレーンに乗ったりしているのを見ると、今後も引き続きこのような機会をつくり、少しでも多くの人に建設産業の魅力を伝えていくことが大切だと感じました。
結びに、自然災害は時と場所を選ばず、いつ発生するのかだれも予想できません。さらに近年は、今まで経験したことがないような集中豪雨などによる甚大な災害がたびたび発生しており、建設業の果たす役割、地域の守り手としての役割が非常に大きくなっております。
しかし、人口減少や高齢化から担い手の確保が大きな課題となるなど、働き方改革やDXの推進等、取り組んでいかなければならないことは多々あります。新たなインフラの整備、施設の老朽化対策や災害時の対応等をしっかり進めていくことが、「災害危機に強い県づくり」「活力を生むインフラと住み続けたくなるまちづくり」につながります。
インフラの整備をこれからもしっかりと進めていくためにも、組織体制・入札制度・人材の確保育成のためのPRは非常に重要であり、引き続きしっかりと対応していくことが大切だと思います。(島津就子)