茨城の歴史点描

茨城の歴史点描㉟ 板谷波山生誕150年

2022.09.06

茨城の歴史点描

茨城県立歴史館史料学芸部 特任研究員 永井 博

 今年は本県出身の陶芸家板谷波山(一八七二~一九六三)の生誕一五〇年にあたります。
 波山は下館町(筑西市)の商家に生まれ、十五歳で上京し東京美術学校(現東京芸術大学)で彫刻を学び、その後陶芸に転じ東京の田端で創作活動を始めます。八十一歳のとき、陶芸家として始めての文化勲章(茨城県出身者としては横山大観についで二人目)を受賞しています。
 波山(「筑波山」をこのように称することにちなんだ号です)の作風の特色は、何といっても「葆光彩磁(ほうこうさいじ)」という技法です。これは薄い絹布を透かしてみるように仕上がる釉薬(葆光釉)を用いたもので、下地に描かれた絵の色が淡く見えるのですが、さらに波山は、作陶した表面に描いた画に彫を施し立体化したうえに、一色ずつ彩色を重ねていくという非常に手の込んだ作業をしています。
 波山は、昭和二十年に一時生家に疎開した以外は、東京で活動しましたが、下館への想いは終生持ち続けていました。たとえば昭和八年から十九年間、下館の八〇歳以上の高齢者に自ら製作した「鳩杖」を贈り続けています。
 さて、アニバーサリーイヤーということもあり、地元筑西市の生家跡にある「板谷波山記念館」はもとより、市立の「しもだて美術館」、昨年開館した「廣澤美術館」で、波山作品が展示されています。そのうち廣澤美術館に行ってきました。
 同館は、筑西市郊外の下館ゴルフ倶楽部周辺に展開する「ザ・ヒロサワ・シティ」の一角に昨年正月に開館したばかりです。建物は隈研吾氏の設計、「浄(きよら)の庭」、「炎(ほむら)の庭」、「寂(しじま)の庭」と名づけられた三つの庭(全体の総称が「つくは野の庭」とのこと)に囲まれ、さらにエントランスに至る通路からは、全国から集めたという六〇〇〇トンの自然石で建物が見えないような仕掛けになっています。館内は広くはないですが、開放的な空間のなかでゆっくり一つ一つの作品と対峙できるようなつくりです。
 別棟にはやはり下館出身で文化勲章を受賞した洋画家森田茂(一九〇七~二〇〇九)の作品も多数展示されていました。また、美術館周辺にはアトリエも設置され創作活動を援助しています。

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